新しい靴を買わなくちゃ

夫が一人で観に行った映画。私は仕事に行っていた。
夫は東映の株主なので株主優待券を持っていて、毎月映画館に足を運ぶ。
「今日の映画『新しい靴を買わなくちゃ』は株主さんとしてはいかがでしたか」
「株主としては、いいんじゃないですか。お客さんもけっこう入っていたし」
「何十人かいた?」
「そんなにはいない」
「十何人かくらい?」
「うん。それくらい」
「でも普段は数人のことが多いもんね、それに比べたら十分多いよね」
「うん、けっこう入ってた。それに制作費がそんなにかかってないかんじの作りだった。出てる俳優さんの数が少ないし」
「登場人物が少ないの?」
「個人として特定できる人は五人くらいじゃないかな。撮影そのものもそんなに日数かけてないかんじで。それでそこそこお客さん入ってくれたら株主としては言うことないなあ」
「鑑賞者としてはいかがでしたか」
「鑑賞者としてはなあ、悪いけどおれの趣味じゃなかったらしくて、途中で寝てしもうた(本人より「寝てはいない。あくびをいっぱいしただけ」と訂正が入った)。でもニッチなお客さんにはウケるんじゃないかなあ」
「ニッチというのは、隙間産業のようなかんじのこと?」
「そうそう、狭い狭い範囲での需要」
「そのわりには有名な俳優さんを使ってることない?」
「うん、俳優さんの知名度というかキャラクターというかなんかそういうので成り立ってるかんじだった」
「じゃあ今日の映画以外に、株主としても鑑賞者としても『これは面白かったなあ』という作品は?」
「今年に入ってから?」
「ううん、株主になってこれまででいいよ」
「うーん。『剣岳』は面白かったなあ」
「他には?」
「うーん、うーん」
「『剣岳』一点だけではあんまりじゃない?」
「うーん、うーん。あっ。『探偵はバーにいる』も面白かった。あれは面白かった。二作目できるはずやわ」
「二作目公開中なの?」
「ううん、まだ」
「二作目製作中?」
「うん。あれは二作目三作目と続くんじゃないかな」
「他には?」
「うーん、うーん、うーん。あっ。『相棒』はそつなく面白いかな」
「へえ、『相棒』も東映だったんだー。知らんかったー。でも株主としてはそれだけではつらくない?」
「まあ、おれは見てないけど、『ワンピース』ががっつり稼いでくれるし、『仮面ライダー』もかたいし、あと『プリクラ』?『クリプラ』?」
「『プリキュア』?」
「それそれ。『プリキュア』も手堅く稼いでくれるから」
「そうか。どうやらくんが見てないところでちゃんと興行収入はあげてるんじゃね。そういえばどうやらくんは東映アニメも戦隊物も見に行かないねえ」
「見んなあ」
夫が東映の株主になって五年以上は経つような気がするが、五年として毎月一作見ている(実際には見に行かない月もあるらしい)としても、数十作以上見て、『これはおもしろかった』とあげる映画が三作というのは、映画を作る人達も映画を売る人たちも株主さんたちも、なんとなくなかなかになんだかたいへんそうだなあ。