南はちみつ研究所

金曜日の午後から出かけて、石川県の美川温泉に逗留。美川温泉は、お湯の色が珈琲色で、しっとりぬるぬるとしているのが特徴。入浴のみの利用でも何度か訪れているところ。以前、泊まりがけで来たのは、もう、数年以上前だが、そのときには、今回とは別の宿泊施設を利用した。そちらは脱衣所や浴室の造りがなかなかにレトロなかんじで味わい深く、お湯がどばどばとうとうと流れる様が豊かだ。今回泊まった施設は、改装が施されていて、レトロな感じはまったくなく、使い勝手がよく便利。宿泊客は、夫と私の二人だけだが、日帰り入浴のお客さんは、ひっきりなしにやってくる。
今回泊まった施設に行くため、高速道路を利用した。現地のインターチェンジを降りて間もない交差点で、「南はちみつ研究所」という看板が目に留まる。「はちみつを研究するのって、何をどうするんだろうね。」「どんな蜂蜜なのか、ちょっとだけ気になるね。」と、話しながら、宿に向かう。
今回宿泊した宿は、インターネットで予約をした。ネット予約特典として、大浴場以外の「家族風呂」を1時間無料で利用できる、ということだ。しかし実際には、ネット予約後の確認メールがなかなか来なかったので、電話をかけて確認した。「すみませんねえ。まだメール見ていなかったものですから。」ということであったが、問題なく空室ありで、無事に予約できた。
チェックインして、部屋の「施設利用案内」の紙を見たら、「お風呂は夜11時までにお入りください。朝は7時から9時の間に家族風呂(無料)をご利用ください。」と書いてある。「なんだー。ネット予約しなくても、もともと、朝の家族風呂は無料だったのかー。夜だったら、特典なしだと、有料なのかな。」と思いつつ読む。
大浴場には、三種類の深さの浴槽と水風呂とサウナがあり、一番深いところは85センチで、立って入るかんじだ。到着してすぐ、大浴場に入り、部屋でゆっくりと過ごす。家族風呂はご飯のあとにしようか、と、話したものの、夕食のあとは、また大浴場に入り、結局、家族風呂には入らないまま、「じゃあ、明日8時くらいに家族風呂で朝風呂に入ろうか。」と話してから、眠る。
「家族風呂」というのは、大浴場ほど広くはない、でもまあ家庭の浴室や浴槽よりも広めのお風呂が個室状態に並んでいて、家族で混浴(?)できるものだ。大浴場の入浴料金に比べると高めの料金設定ではあるが、1時間貸切で、家族以外の他人がいない、という気楽さがメリットだろうか。ちなみに今回の施設は、家族風呂の利用料金が、1時間一人ならば1100円、二人ならば1500円、三人なら1800円、と表示されていたように思う。大浴場の大人一人の料金は500円。
大浴場の朝の営業は10時からなので、それまでは、誰も日帰りのお客さんは来ない。朝8時前に、では、家族風呂に入りましょうかね、と思い、一階に下りてゆく。家族風呂はいくつも並んでいて、はて、どのお風呂を使ったらいいのかわからないね、宿の人に訊いてみよう、ということで、尋ねてみた。
最初に訊ねた人は、私たちが泊まる二階の客室清掃担当で、家族風呂のことはよくわからない様子で、宿の経営者婦人と思われる人を呼んで訊いてくれる。「奥さん」と呼ばれるその人は、たいへん驚いた様子で、「ええっ?今から家族風呂ですか?ネット特典の1時間無料の利用が昨夜のうちになかったので、今回はご利用なさらないのかと思ってました。」と言われる。「お部屋の案内書に、朝のお風呂は7時から9時の間に家族風呂を使うようにと書いてあったのですが。」と言ってみると、「ああっ。そういえば・・・。すみません。そのつもりでいなかったので、まだ家族風呂のお湯が全然入っていないんです。お待ちいただけるのでしたら、これからでもお入れしましょうか。」と言ってくださるが、「いえいえ、いいですよー。また今度入りに来ますから。」とお断りする。「奥さん」は、「ごめんなさいねえ。10時になったら大浴場に入れますから、もしもよかったら、チェックアウト遅くなってもいいですから、お部屋そのまま使ってもらって、大浴場のお風呂に入っていってください。」と提案してくださった。
結局は、朝の家族風呂に入って湯上りにだらりとする時間がなくなった分、早く準備ができてしまい、それじゃあ、早めにチェックアウトして、早めに今日の予定地へ行こう、ということになり、9時過ぎにチェックアウト。
会計の清算を終えたところで、「奥さん」が、「今回は、ご迷惑おかけしてごめんなさいね。よろしければ、こちらのお煎餅をお持ちになってください。」と、煎餅を一箱くださる。部屋に置いてあった茶菓子と同じお煎餅だ。部屋でいただいたときに、私が二枚とも食べたのだが、一枚はとても湿気ていて、煎餅なのに「ぱりっ」という音がせず、夫が「濡れ煎餅か?」と言った。けれど、濡れ煎餅としては、しっとり感がなさすぎる。二枚目は「かりっ」と音がして、普通の煎餅だった。なので、本来はごく普通の瓦煎餅なのだと思う。煎餅をくださった「奥さん」にお礼を言い、駐車場の車へ向かう。私が後部座席に荷物を積み込んでいたら、夫が、「あ。ちょっと、俺の分も乗せといてくれる?これ、変えてもらってくる。」と、さっきもらった煎餅の箱をひらひらさせる。「どうしたの?他のもののほうがよかったの?」と訊くと、「ううん。これ見て。」と賞味期限のシールをこちらに見せてくれる。賞味期限は、2009年6月11日。過去だ。「なるほど、きっと部屋で食べたお煎餅も、期限切れだったんだろうね。それならあの湿気具合も納得。」
夫は宿に入ってゆき、私は荷物を全て積み込み、運転席でエンジンをかけて待つ。戻ってきた夫が手にしているのは、さっきとは違う形と大きさの箱だ。「すみません、期限が切れてるみたいなんで、期限が大丈夫なものに交換してもらえますか、って聞いたら、おばちゃん、期限のシールを逆さまにして見て、11年(2011年)の9月じゃなかったですか、って言ってたけど無理があった。で、煎餅は、あれ一個しかないけん、って、代わりに蜂蜜くれた。中身が少し白く濁ってますけど、大丈夫ですから、って言ってた。」という報告とともに、夫が見せてくれたのは、「南はちみつ研究所」のクローバー蜂蜜。
思いがけず、ちょっと気になっていた蜂蜜が手に入ってよかったね。けれど我が家は基本的に、あまり蜂蜜を使わない食生活なのに、こんなにたくさん使いきれるかな。蜂蜜メニューをちょっと研究してみようか。と話しながら帰って来た。