バジルペースト

ニンニクを食べられなく(ニンニクやタマネギ、ネギ、ニラ、ピーマンなどを食べると胸焼けや頭痛などの症状が出て生きるのがつらくなる体に)なって以来、それまで大好物だった「バジルペーストのパスタ(ジェノベーゼ)」とすっかり疎遠になった。それまでは、市販や生協で注文する各種バジルペーストを、それはそれはおいしくいただいていたのだけれども、それらの既製品には、ほぼ必ず、ニンニクが入っている。そのニンニクの存在がおいしさの秘訣なのも知っているが、命がけで食べるのは危険すぎる。しかしバジルソース好きとしては、この事態をなんとかしたい、と、ずっと考えていたら、ニンニク抜きで自分で作ってはどうか、という案と出会う。そうか。自分で作ればいいのか。
スーパーの野菜売り場で、生のバジルを見てみたところ、そのあまりの少量さと割高感に挫ける。たっぷりのバジルソースを食べるには、たっぷりの生バジルが必要であろうに、いったいどうすればいいのだ、と勘案していたら、バジルはプランターで簡単に育てることができ、虫も付かず、ワサワサ大量に採取できるらしい、という情報と遭遇する。やったー、やったー、よーし、バジルの種か苗を買ってきて植えるぞー、と張り切るものの、なかなか種にも苗にも会えない。うーん、どうしたものだろう。
それに、すり鉢と乳鉢はあっても、フードプロセッサーや電動ミルがない我が家において、もしも手作りするとなると、包丁でみじん切りにしてから、すり鉢でずりずりとするんだよなあ、手間だなあ、面倒くさいなあ、と考えた結果、電動ミルサーの購入を決定。お茶っ葉を粉末にすることもできるし、各種ふりかけを作ることもできるし、果物ジュースも作れて、ペースト作りもできるよ、というもの。その電動ミルサーが我が家に来たのが、ほぼ一週間前のこと。
頭痛対策として三月から、フィーバーフュー(ナツシロギク)というハーブを摂取することにしたのだけれど、お茶として飲むにはその味が、私にとっては継続困難な味(ミントティーに似たスーハーシーハーした爽やかすぎる味)であった。しかしその成分は摂取したいので、粉薬のように水で飲み込むことにしてみたのだが、葉っぱや茎の先端が喉に突き刺さるような感触があり、これまた喉越しの具合がよろしくない。それなら、すり鉢で繊維を細かくすれば飲みやすくなるかも、細かくすればカプセルに充填して持ち歩きもできるだろうと、すり鉢でごりごりとすって飲んでいた。それはそれでそれなりに飲みやすくはなったのだけれども、きっともっと細かい微細な粉末にしたほうが、ぜったい飲みやすいはず、と思っていた。だから、我が家にやってきた電動ミルサーの初仕事は、フィーバーフュー粉砕。粉砕された粉末は、非常に飲みやすく、カプセルにも充填しやすく、なによりも、すり鉢では時間のかかっていた粉末化作業が、ミルサーではほんの数秒から十数秒で仕上がる。文明万歳。これでフィーバーフュー(ナツシロギク)ハーブティーの粉砕は解決した。あとはバジルを育てるだけだが、種や苗との出会いはまだかしらねえ。そう思いながら過ごしていた。
そして昨日、琵琶湖のほとりの温泉施設で、大学時代の友人と会った。そのときに友人が、「みそさん、食べられるんなら食べてくれるかなー」と言って、自宅菜園で摘みとったばかりの生バジルをくれた。水にしめらせたキッチンペーパーにはさんで、チャック付きビニール袋に入れて。私は「うわー、ちょっとー、すごいよー、なんの魔法だー。ついこのまえ、バジルペーストを作る機械を買い揃えて、あとはバジルを育てるだけ、と思ってたとこだったんよ。そこに、すでに育ったものをもらえるなんてー」と狂喜乱舞。友人は「うちでは、使わなくなったコーヒーミルでバジルペースト作るねんけど、葉っぱとオリーブオイルだけをがーっと混ぜたら出来上がりやねん」と教えてくれる。私がネットで予習していた各種バジルペーストレシピよりも断然簡単な内容だ。
そして今日帰宅して、夕ご飯に、さっそくバジルを使うことにする。ビニール袋から葉っぱを取り出すと、うわーっと歓声をあげずにはいられないほどのバジルの香りが立ち上る。昨日摘み取ってくれてから24時間以上経過しているのに、葉っぱのみなさんは、ぶりぶりとしてお元気だ。これは、冷凍ピザシートがあったら、この葉っぱをのせて焼いて食べたいなあ、と、思うものの、我が家には現在ピザシートがないので、今回はパスタにていただくことに。
パスタを茹でるお湯をわかしつつ、フライパンで豚ばら肉を小さく切ったものとトマトを小さく切ったものを炒めておく。その間に、ミルサー容器にバジルの葉っぱとオリーブオイルを入れて、ふうんふううん、と撹拌する。ペーストにするには、思ったよりもたくさんのオリーブオイルが必要なのだなあ、と学習しながら、少しずつオリーブオイルを足して、ちょうどいいドロリとした状態にする。撹拌の合計時間は、五十秒ほどだろうか。茹で上がったパスタを、フライパンにうつして、豚肉とトマトとあえる。そのままテーブルに置いて、夫と私それぞれのお皿にパスタトングで取ったら、ミルサー容器のバジルペーストをスプーンでトロリとかける。パスタ全体が緑色になるように混ぜて、粗塩をふって、食べる。くうっ、おいしい。これはおいしい。とてもおいしい。再々食べたい。やっぱりベランダで栽培しよう。パスタを食べ終えたお皿についたバジルソースの残りまで、パンでぬぐってきれいに食べて、ごちそうさまでした。あー、おいしかった。