伊吹山の上と下

夫が今日日帰りでひとりで歩きに行った山。高速道路で移動するため普通車を使いたいということで、今日の私の出勤は夫の軽自動車で。職場に着くと私が乗ってきた軽自動車を見た同僚たちが「どうやらさんの旦那さんは今日もまたお山なのね」と言う。
伊吹山滋賀県にある。夫は朝4時半を過ぎたころだろうか5時になるよりも早い時間に出かけていったように私は布団の中でおぼろげに気配を感じた。
伊吹山の現地に夫は朝の6時過ぎに到着。山のふもとの民間駐車場のおじさんが朝早い時間であるにもかかわらず「こっちおいでこっちおいで」と誘導してくれるから夫はそこに車を駐める。駐車料金は一日500円。
駐車場のおじさんは夫に伊吹山ガイドマップを手渡して登山道の案内をしてくれる。このおじさんの駐車場は最大で10台くらい駐車可能。夫が駐車した時にはすでに7台くらい駐車してある。おじさんの駐車場以外にも近隣の家々の庭先が駐車場にしてありどこも500円で駐車可能。
夫はおじさんにもらったガイドマップを参考にしつつ歩く。伊吹山は山頂近くまでドライブウェイが整備されていて山頂に最も近い駐車場に車を置けばほんのちょっと歩くだけで山頂からの眺めを望める。しかし夫は山歩きをしたくて山に来ているので一番低いところから歩く。山頂までは2時間少し。
山頂で写真を撮り終え、山の茶屋に立ち寄る。営業中の看板が出ているからここで食事をしようと立ち寄る。夫が「少し早いんですけど、お蕎麦とか、もうできますか?」とお店の人に尋ねる。お店で接客をしてくれる年配の男性は「すいませんねえ、蕎麦はこれからだと30分くらいかかりますねえ」と言う。夫が「そうですか」と合いの手を入れてどうしようかなと考えたところに、お店の奥から年配の女性(お二人はご夫婦の様子)が出てきて「ちょっと、あんた、何言ってるの。蕎麦は10分もあればできます。おにいさん(夫)、ごめんなさいね。大丈夫ですよ、どうぞおかけください」と言う。夫が「じゃあ」と席に座る間、お店の男性が「でもまだお湯も沸いてないし」と女性に言う。女性は「お湯が沸くのにそんなに時間はかかりません」と男性に言う。
「んー、どうやらくん、そのお蕎麦は、その場で手打ちするお蕎麦なの?それなら30分くらいはかかってもおかしくないけど」
「ううん、全然、ふっつーの、そのへんのスーパーで売ってるようなビニール袋入りの蕎麦をお湯でさっとゆがいたやつにかけつゆをかけてあるやつ」
「そうかあ。じゃあ、そんなに時間はかからないかあ」
夫が席でメニューを見てからお店の男性に「どれがおすすめとかって、あります?」と問うと、お店の男性は「いえ、別に、これといって、特にないですねえ。どれでもお好きなものを」と言われる。メニューは伊吹そばの他には天ぷらそば、うどん各種、カレーなどの大衆食堂メニュー。夫は伊吹そばを注文する。待ち時間7分ほどで伊吹そばが供される。夫は持参のおにぎりとお店の伊吹そばを食べる。
そばを食べ終えたら下山。11時くらいには駐車場に帰着。駐車場のおじさんが「おかえりなさい」と出迎えてくれる。駐車場のおじさんは汗をかいて戻ってきた夫に湯呑みに注いだ冷たいお茶をすすめる。小皿にお漬物を入れて、小さなチョコレートを添えて。
駐車場の利用客は駐車場でトイレを借りることができ、なによりもありがたいのは屋外の水道水で登山靴を洗えること。登山靴を洗うために用意された洗い場には登山靴の泥を落とすためのブラシまで用意されていてなんともいたれりつくせり。
駐車場のおじさんは「このあと近くの共同浴場で汗を流されるといいですよ」「ここのお湯は薬草風呂でいいですし、こちらの浴場だとジャグジーなんかの設備がいろいろあるのが気持ちいいですよ」とガイドマップの地図を示しつつ詳しく説明してくれる。さらには「もしまた今度来られるときには、うちに電話してもらえたら、駐車場の場所確保しておきますから」と伊吹山ガイドマップに手書きで電話番号を書く。「ご来光に合わせての深夜の到着でも何時でも言ってもらえればお待ちしておりますので。当日のお天気がどうかなあ、などと思われるときにはなんでも電話で問い合わせてもらえれば、こちらの情報をお知らせしますからね」とまで案内あり。
夫は「山の上の蕎麦屋のおじちゃんの接客もすごかったけど、駐車場のおじちゃんの接客は500円でこんなにいろいろしてもらってええんやろうかと思うレベルやったなあ。あれだけしてもらうと、なんとなく、もし今度また伊吹山に行くときにはあの駐車場のおじちゃんに電話してから行こうかなあと思うなあ」と言う。私は「接客というお仕事をどうせするのであればお客さんから受け取るお金が多いわけではなくても自分の地元のこの山に遊びに来たお客さんには存分にたのしんで行ってもらいたいなあという気持ちで接客するほうがやってるほうもたのしいような気がするね」と応える。