初めての金爆粉

今朝方の夢。
夢のなかの職場で処方箋の粉薬を作ろうとしたとき。
処方内容は、トミロン(抗生物質)・ムコダイン(粘膜調整去痰剤)・メジコン(咳止め)・そして、金爆粉。
は? 金爆粉って? なにそれ、なにこれ。しばらく処方箋をにらみつける。
はっ、ああ、そういえば、少し前に何かで聞いたことがある。
通常粉薬を賦形(飲みやすく加工)するときには乳糖を用いるが、その乳糖に似たものででも色合いが金色のようなキラキラとしたもので見方によっては七色に見える有効成分のない粉が医療用賦形剤として薬価収載されたらしいと。
通常の白色の乳糖はたとえ用いたとしてもそれで薬代が加算されることはない。しかし、この金爆粉は薬を飲みやすくする目的ではなく、いや広義で言えば飲みやすくなるとも言えるのではあるが、薬を飲む時の薬の見た目をきらびやかにすることで飲む人のワクワクした気持ちを増幅し、金色が自分の身体の中に入ってくることでなんとなくパワーアップしたような気持ちになる、そんな希望を持つ人およびその保護者のリクエストがあった場合に医師が処方箋に記載する。その金爆粉を用いた場合は金爆粉の代金を加算することができる。
ああ、あの金爆粉がうちの薬局でも出るのか。
しかし金爆粉の在庫はまだここにはなかったはず。上司に確認するが「まだないから本店に確認してみて」と指示を受ける。本店に電話をかけ金爆粉の処方箋が来たことと在庫がないこと本店に在庫があれば至急で分けてもらいたいことを伝える。
結果、本店にも在庫がないことがわかる。本店の患者さんは年配の方が多いため粉の見た目の色に対する要望が少ないのだろうか。やはりここのように小児の患者さんが多いところのほうがこういうことに対する要望があがりやすいのかな。
本店で至急発注手配してすぐにそちら(私のいるところ)に卸さんから配送してもらうようにするので、患者さんには少し待ってもらうか、後ほどお届けにするか、で話をしてみてください、とのこと。
小さな患者さん本人と一緒に来局されているお父様に事情を話して相談する。親子とも「キラキラした薬がすぐにほしいからここで待ちます」と言われる。では、届き次第すぐに作ってお名前お呼びしますので、他の方を先に呼んでお薬お渡しする間、すみませんがおかけになってお待ちくださいね、と伝える。
まもなく取引先の卸さんが配達に来てくださった。届いた金爆粉をすぐに開封して計量する。分包機で包む。おお、なかなかにきらびやかな粉だな。朝昼夕の三食後ぶんずつ三包ずつで折りたたむ。
はっ。待て待て。今私は白いムコダインと白いメジコンと金色の金爆粉は処方箋に記載されたグラム数どおりに量ったが、トミロンは量ったか? もしや抗生物質のトミロンを入れ忘れたのではないか?
分包した粉を振って、さらさらとした粉を蛍光灯に透かして色合いを確認するが、ダメだ、金爆粉のキラキラでこの処方でもっとも重要と言える抗生剤のトミロンの淡いオレンジ色が目視で確認できない。全体の重さをはかりで見てみるが、体重の少ない小さな子で、薬包紙の重量込みの重さだとしても、計量誤差の範囲なのかどうかが判断できない。うう、うう、こういうときのために計量監査システムの機械やっぱりほしいなー、と思うが、とりあえず、ここはいったん、この粉はマジックで薬包紙にクエスチョンマークをつけて調剤台の隅に置いておいて、別に新たに作りましょう。
今度はひとりブツブツと指差し確認といつもよりも少し大きめな独り言の声で口頭確認しながら計量する。ひとつ計量しおえたらわざとらしいほどに大きく濃く処方箋のコピーに計量済みの印をつける。ムコダイン何グラム、メジコン何グラム、トミロン何グラム、金爆粉何グラム、よしっ。分包機に入れてヘラでならして日数分に分包する。カッタカッタカッタカッタ、ヒュウウウウウン。
分包紙に包まれ出てきた粉を今一度見る。うう、キラキラしていて薬の色がわかりづらい。さっきよりも若干トミロンの薄い橙色が感じられるかなー、どうかなー。
薬袋に入れて処方箋のコピーと一緒に投薬担当薬剤師に回す。袋から出して、さらさらと粉を確認した同僚は「う。どうやらさん、これ、トミロン、入っている、ん、だ、よ、ね?」と言う。「はい。入っています。初の金爆粉処方で平常心が一時家出したためにおそらく入れ忘れたのがこっちのほう(クエスチョンマークをつけて保管してあるほう)なんですが、こうして比べてみても、粉がキラキラしていると色味がわかりにくくなりますね」と私は答える。同僚は「うわー、こんな色になるんだー、うわー」と言いながら重量と包数と薬袋表記その他を監査する。そしてずっと待ってくれていた患者さん親子を呼ぶ。
「たいへんお待たせしてごめんなさいね。では、このように、キラキラの色のお薬に作りました。これならがんばって毎日しっかり飲めるかな?」
「わあー、やったー、おとうさんっ、これゴールデンボンバーの粉っ、飲むっ、すぐ飲みたいっ、今飲むっ」
その子のお父様は「この子はこれまで粉薬は苦手で、口に入れてもべーっと出したりすることが多かったんですが、これなら飲めるかもと思って、今回先生に頼んでみたんです、先生も処方するの初めてって言われてました」と話してくださる。
その子は口に粉薬をさあっと入れてもらい、そのままモニュモニュと口の中で舐める。お父さんが紙コップに入れた店頭サービスのおいしいお水を手渡すとごっくんと飲み込んでから口をぱかあっと開けてすべて飲み込んだことを父親と薬剤師に見せてくれる。
その親子が帰ってから、同僚の薬剤師と一緒に「ちょっと、この金爆粉って、他の色のついた薬の色味がわからんようになることない?」「私もそう思うー」「どれどれ、ちょっとトミロン以外の他の色の粉とも混ぜてどんな色になるんか見てみよっさ」「じっけん、じっけんー」と混合実験を始める。そうした結果、青色や緑色系の粉薬と混ぜたときには青緑がしっかりわかるものの、小児の粉薬に多い橙色や桃色といったものと混ぜた時には入れたものと入れないものの色の違いが少ないことが判明する。これでは見た目で何色の粉が混合してあるのか判別しにくい。ううむ、これは、どうしたものか。やっぱり計量監査システムの導入を社長におねだりしましょうよ、と私は両手の拳を握る。


この夢でわかったこと。
その一。現実であれば新発売の調剤用粉末でもなんでも新製品についてはたいていの場合事前にメーカーさんからサンプル付きで説明があるはずだから、いきなり調剤の段になって、ええっこんな色になったら薬の見分けがつかないようっ、というような事態に陥ることはないから安心してだいじょうぶ、夢でよかったね。
その二。どうやら私は前々から計量監査システム(自分が計量した粉の名称と重量が小さなレシート状の紙に印字される機械、以前働いていた熊本の職場にはあった、というか頼んで買ってもらった)の導入を社長におねだりしたくてたまらないようである。
その三。ゴールデンボンバーという人たちが活躍中であるらしいということは知っていたが、彼らの名前を冠した何かが医薬品業界にまで進出してくるとは思わなかった、のではなくて、私の夢にまで進出してくるとは思っていなかった。本人が意識していなくても知らず知らずのうちに脳は情報を受信してアレンジするのものなのであるなあ。