静止する演説

我が家では毎週大河ドラマを見る習慣がある。夫は戦国時代ものだと熱心に視聴し幕末明治初期の話の場合は流し見をする傾向がある。私はどれもそれなりに熱心に見るが幕末明治初期もののほうを戦国時代ものよりも好む傾向がある。小学校の教室の黒板上に貼られていた歴史年表で徳川慶喜公を知って以来どういうわけだかなんとなく彼には思い入れがあり、いろんな俳優さんが彼を演じるのをそれぞれにたのしく視聴している。
昨日夜八時の大河ドラマを見ていたら伊勢さんという人が演説を始めた場面で音声と画像が静止した。ほう、ここで間をとって「ためる」のね、と思いつつ見る。が、なんだか「ため」にしては長いなあ、放送事故になるギリギリまで「ためる」のかしら、それも思い切った手法だわねえ、それにしても伊勢さんあまりにも微動だにしないなあ、これは「ため」ではなくて本当にもしかするとなんらかの放送の不具合なのかしら。
と思っていたら突如場面が変わり、みねさんが覚馬さんに向かって「はい」と言う。えーと、いったいなにが「はい」なのー。このままおとなしく見ていたらなにかわかるかもしれない、と静かに見続けるがそのまま伊勢さんの演説が終盤に入り伊勢さんの音声が大きくなり拍手とともに演説が終わる。
それでもこのままおとなしく見ていたらなにかわかるかもしれないとそのままその後の視聴を続けているうちに次回予告と紀行を見終える。アナウンサーの人が画面に映りニュースが始まる。なんとなく放送に不手際がありましてすみません、と言いそうな顔をしている気がしたがそのまま何も言わずニュースが始まる。うにゃにゃ、あの映像静止現象は全国的な現象ではなく我が家のテレビの問題か、あるいはうちのマンションのアンテナの問題だったのか。
詳細は不明だが、とりあえず夕方六時のBSで録画した大河ドラマを再生し、伊勢さんの演説のところまで早送りする。そこでは伊勢さんの演説の場面から覚馬さんとみねさんの場面になり父娘が語り合う場面とそれを見守る八重さんと佐久さんの姿に移っていた。そうかこういう場面があの静止画のあいだに繰り広げられていたのか。
「ああ、すっきりしたー。さっき放送事故かと思った伊勢さんの演説の場面が六時の録画で解決してよかったー。予約録画設定していた私お手柄ー」
「ええっ、さっきのところただの『タメ』かと思ってたんだけど。えっらい長い『タメ』やなあって」
「でもあの『ため』のあとでいきなりみねさんの『はい』では話が繋がらんじゃん」
「そうかなあ、あんまり気にならんかったけど」
「いや、そこは、ドラマを見る者として気にしようよ」
夫は私の話をときどきああいうかんじ(伊勢さんが演説中に静止したようなかんじ)で脳内静止して聞いていたりするんだろうなあ。