伊江島

沖縄旅記録5日目(4月30日)分。

今日も涼しい。ビーチ欲は湧かない。夫はホテルの一階に朝食(トースト、サラダ、目玉焼き、ソーセージ、コーヒーがプレートに一式のっている)を食べにゆく。私は室内で朝食。前日お菓子御殿のようなところで買っておいた紅芋パイと紅芋かるかんを食べ、ミルクティーを飲む。部屋には電気ポットもあるのでお湯は沸かし放題飲み放題。冷蔵庫に飲み物やヨーグルトも保管できる。ミルクティーのミルクは豆乳が基本だが、旅先で豆乳入手のタイミングを逃した時には、ペットボトル飲料のミルクティーを熱い紅茶にブレンドして飲む。朝食から戻ってきた夫は、ひとまずベッドに横になる。

今日は伊江島に行ってみようか、という話になる。沖縄本島本部港からフェリーに乗って行く。フェリーの時間をフロントで尋ねたら、時刻表を印刷してくださる。今から出れば、11時のフェリーに乗れる。現地到着は11時半。帰りは13時のフェリーは無理っぽいから、16時の最終便に乗るようにしよう、と計画しながら出発。しようとしたそのときに、夫が「うわう、くうっ!!」と叫び声をあげてうずくまった。ベッドの脚の角に左足薬指をぶつけたらしい。フローリングの室内は清潔で快適だが、元気よく歩行すると、下の階の部屋に足音が響きそうで、私はスリッパをはいていたが、夫は私の助言を無視して裸足歩行中であった。

「スリッパはね、足音軽減にもなるけど、危険からの保護もしてくれるよ。」
「もっと早くそれを言ってほしかった・・・」
「スリッパ履いたほうがいいよ、っていうのは、この部屋に入ってすぐに言ったよー。」

夫の左足薬指は、どす黒い紫色に腫れてきた。冷却しよう、とか、必要なら消炎鎮痛の貼り薬を巻こう、という私の提案の全てを却下し、「だいじょうぶ。力を入れなければ全然痛くない。骨も折れてない。だいじょうぶ。」と言う。

宿から港までは車で40分ほどだろうか。本部港は、伊江島に渡ろうとするお客さんでいっぱい。観光客風の人もいれば、お仕事風の人もいる。暑くはないのだけど、日差しが眩しいので、サングラスと日傘も携帯する。島内はそれほど広くはなく、坂道も少なく、案内地図には「お時間のある方はサイクリングでゆっくりとおたのしみください。」と書いてある。が、「私のサイクリング走行可能な距離は4kmまでです。それ以上走行するならば、レンタカーを借ります。」と宣言しておく。

島到着後、港近くのレストランでお昼ご飯をいただく。イカ墨パスタと豆腐味噌いため定食。味付けがとても上手でおいしい。食後レンタル屋さんへ出向く。自転車もたくさん置いてあるけれど、車を借りる。軽自動車、スズキのミラ。伊江島でこの時期開催されている「ゆり祭り」と「ハイビスカス園」を目指す。「ゆり祭り」の百合の花たちは、全体的に終了気味。「ゆり祭り」会場からは夫が運転してくれることに。軽自動車なら運転してくれるらしい。今度から旅先で借りる車は軽自動車にしようかなあ。ハイビスカス園にはたくさんの種類のハイビスカスが存在している。こんなにいろんな種類があったとは。ハイビスカス界も奥深い。その後、岬のようなところで「伊江ソーダ(ドラゴンフルーツ味)」を飲む。本当は「沖縄ぜんざい」が食べたかったのだけど、お店のおばちゃんが「ごめんねー。今日はぜんざい持って来てないのよー。うちのぜんざいはおいしいからお勧めなのに、ごめんねー。」ということで断念。しばらくおばちゃんとドラゴンフルーツの話などしていたら、夫がお店の扉に貼ってある商品案内の紙をじーっと見て、「やっぱりちがう」と言う。何がちがうのかしら、と思ってよく見たら、「氷、ぜんざい、アイス、ジュース」と書いてある紙の「氷」の文字が「永」。私がメモ用紙に「こおり、は、氷、ですかね。」と書いてみせる。おばちゃんは「ええー??うわっ、ほんとだー。もうずっと永いこと、ここでこの紙で、商売してきたのに、誰にも何も言われたことなかったわー。それにこの紙で何回もテレビの取材も受けたのにー。うわー。」と慌て気味。夫は「せっかくだから。」と「永」の文字をカメラに収める。おばちゃんが「いやー。そんな意地悪せんといてー。うわー。」と言いながら紙をはがす。そのあとも空に指で文字を書きながら、あれ?あれ?と首を傾げ続けておられる。正しい氷の字に書き直すことができただろうか。その後は、南側の海を眺めて、民間の歴史資料館に300円で入り、そこで売ってる黒糖菓子各種味見しまくり、夫念願の城山に上り、そこで夫は山頂まで歩いて登り、私は車の中でお昼寝した。夫は島に着いてからずっと、「怪我した左足薬指のことさえなければ山頂まで登れるのに。」と言い続けていたが、結局、左足薬指のことがあっても、高いところには登らずにいられない小人が勝利したようだ。借りていた軽自動車を返し、帰りの船に乗る前に、喫茶店で「沖縄みるくぜんざい」を食す。沖縄ぜんざいとは、煮豆にカキ氷をかけたもの。

帰りの船もお客さんでいっぱい。甲板席に座っていたが、風が強くてあまりに寒く、室内の客室に移ってみる。ところが室内は冷房でさらに寒い。あきらめて外の席に戻るも寒くてたまらない。夫が「そんなに寒いかー?氷食べたからちゃう?ここは日陰だから、そこの日向の席に座ったら?少しはマシなんじゃない?」とアドバイスしてくれたので、それに従う。陽が当たる分温かいが、屋根がない分海風吹きさらしで、やはり寒い。日光の熱を浴びつつ、風の影響を最小限にするには、と考えて、体を丸く小さく縮めて、自分で自分の体を抱いて、じーっとうずくまる。途中であまりに寒くなり、屋根のある席で空いているところで足元だけは太陽があたる所に移動。そこでもじっと寒さをやりすごす。ようやく到着した本部港で、待っていてくれたレンタカーに乗って、車内の温かさにほっとする。夫が、「さっき船に乗ってるときに、俺の隣にいたおばあさんとおじいさんが、みそきちがうずくまって座ってるのを見て、どうしたんじゃろう、あの女の人(私)具合が悪いんやろうか、声をかけてあげたほうがいいやろうか、だいじょうぶやろうか、って、ずーっと心配してて、少しして、みそきちが別の席に移ったときにはよそを見てて、ふと気がついたらみそきちの姿がなくなってたから、そのおばあさんすごく慌てて、うわ、どうしよう、さっきの人、いなくなってる、どうしたんやろうか、つらくなって海に落ちたんやろうか、船員さんに言ったほうがいいやろうか、って心配し出して、俺も他人のフリをし続けるわけにいかなくなって、すいません、だいじょうぶです、あそこにいます、寒いだけなんで、だいじょうぶです、言うといた。」と教えてくれた。

この日の夕食は、ステーキリベンジ。昨夜の困ったステーキの記憶を、おいしい記憶に塗り替えるのだ。ステーキレストランに向かう。道沿いで見つけたところに入ってゆく。そのお店では、屋内席では石焼で、屋外席では七輪で、焼いて食べるシステムだ。夫の要望により、七輪席で食べることに。石垣牛とアグー(沖縄豚)と野菜のセットにした。鉄板で出てくるステーキとは異なるけれど、どの肉も異様なおいしさ。脳みその細胞のひとつひとつが旨味の快楽に震え続ける。脳だけではなく、全身の細胞が、喜びに打ち震える。

今日は本当によく遊んだね、と、満足げに話しながら、宿に戻る。そして床に就く。