称名の滝(しょうみょうのたき)

立山の町を流れる川沿いに、上流へ上流へと上っていき、駐車場に車を置く。宿の「おにぎりサービス(二個で300円)」で用意してもらったおにぎりを、車中で食べる。山の緑を眺めながら、お茶を飲みながら、なんだかこういう「お弁当っぽいにおい」は久しぶりだね、と話しながら。腹ごしらえを整えたら、坂道を歩いて上る。道端にあるお土産屋さんの店頭に「どうぞお使いください。」と書いて置いてある杖を借りて上ってゆく。上る、といっても、なだらかでゆるやかな舗装された坂道なので、実際全然登山ではない。けれど、標高が高いところも、気圧が低いところも、あまり得意ではない私にとって、「滝まで徒歩30分」の文字は、いろんなやる気が低下するのに十分だ。「30分って書いてあるってことは、きっと1時間かかるよ。」と萎えた発言をする私に、「ゆっくり歩いて30分ってことだよ。800メートルくらいだし。」と、夫は珍しく励ましてくれる。私が低地で留守番せずに一緒に歩いて上っていこうとすることも珍しいが、小高いところに素早く上らずにはいられない夫が、私のペースに合わせてでも一緒に連れて行こうとするのも珍しい。
のんびりのんびりと、夕涼みの散歩でもするかのように、雨上がりの道端に映える葉っぱの緑と葉脈としずくに見入ってみたり、遠くの稜線にくらくらとめまいを感じてみたり、遥か眼下に連なる砂防ダムの構造に感心したりしながら歩く。杖を使うと膝の負担が少なくて済む。歩いていくほどに、ぐっと涼しさが増してゆく。
滝が見えるところまでゆくと、滝のしぶきが霧雨のように降る。滝の水は、立山の雪解け水。その直径は何メートルかはありそう。夫は「これまで見た滝の中で一番大きい。あの滝の下で修行するのは無理だ。」と言う。
帰り道を下ってゆくと、下から雨雲がぐんぐんと上昇してくる。さっきまで見えていた砂防ダムも稜線も雲にかくれて見えなくなる。杖を返しにお店に寄って、ソフトクリームを買う頃には、大粒の雨がぽつぽつと落ちる。ソフトクリームを舐めながら、駐車場までゆっくりと歩きたいところだけど、舐めるのは後回しにして、とにかく駐車場まで走る。車に乗る。ドアを閉める。だあーっと雨が降り始める。はあ、間に合ったー、と安堵しながら、ソフトクリームを食べる。血糖値も整ったところで、帰路の運転開始。