ヤギの目

立山のふもとの町よりも、さらに低いところの道沿いに、道の駅のような施設があり、その隣にはコンビニエンスストアがある。施設では、地元の野菜や乾物や「鱒の寿司」などが販売され、食堂では蕎麦やうどんやカレーやラーメンなどの軽食を提供している。コンビニエンスストアで、翌朝の朝食用の飲み物や食べ物を購入してから宿に入る。宿の朝食を食べると、お腹がいっぱいになってしまって、お昼ご飯が食べられなくなるので、最近は外してもらうようにしている。自室で持参のティーバッグで入れた紅茶を飲み、ゆで卵と五穀ビスケット(夫はパン)とりんごジュースくらいにしておくと、お昼前の空腹感がわくわくと楽しいものになる。
コンビニと道の駅のような施設の駐車場の奥に、ポニーとヤギと羊の牧場がある。夫は、動物に手招きするのが好きなので、ここに立ち寄るたびに、動物たちのいる柵のそばに近寄っては手招きをするのだが、ただ手招きをするだけでは、誰も近寄ってきてくれない。が、「えさ」として売られているカットニンジンを購入して、その一本を片手に持って近寄ると、全ての動物たちが夫をめがけて押し寄せてくる。いや、夫をめがけて、ではなくて、夫が持っているニンジンめがけて、だ。彼らは、柵の隙間から口を突き出し、「この口にニンジンを入れろ。入れんかい!」と意思表示する。群がるヤギと夫の姿を写真におさめながら、ヤギの眼球(黒目)は横長な長方形(やや丸みのある四角)であることに気づく。上下には細くて、左右(前後)に長い。この眼のつくりだと、おそらく、上下の視野は狭くて、前後、特に後ろの視野が広いのだろう。背後から襲ってくる肉食動物の存在を察知して逃げる方向を決めるには、この眼が便利なのだろうか。私の目だと、両眼の視野は、たぶん180度くらいだが、あのヤギの目なら、300度くらいは見えていそうなかんじだ。
それにしても、ポニーがニンジンを食べるのは、なんとなくイメージどおりだが、ヤギも羊もニンジン好きだとは、全く知らなかった。夫は「そらあ、草に比べたら、ニンジンはうまいやろう。甘くてジューシーで、草とは全然違うやろう。栄養もあるし。」と言う。そんなに好きなら、動物図鑑のヤギと羊の好物欄に、「ニンジン」と書いておいてあげたい。既に書いてあるのだろうか。