四連の玉蒟蒻

五月二日お昼旅記録。車に乗ってお昼ごはんを食べに出かける。ナビに設定する行き先は、蒟蒻専門店。蒟蒻のコース料理などが有名だ、と、古い(2000年版)ガイドブックに書かれている。宿のある温泉地のあたりからすぐ近くかと思っていたのに、案内先まで意外と距離がある。道中では、菜の花と桜をまたもや満喫。せっかく桜が咲いていても、この時期は農繁期だから、どこの農家の人たちも忙しそうで、のんびり花見をしている人をまだ一人も見かけていない。
ナビはまだまだ先を目指している状態なのに、夫が「あ、ここだ。蒟蒻屋さん」と言って助手席から外の建物を指差す。向かいの駐車場は、普通車と観光バスでいっぱいで、停めるところがなさそうなかんじだし、それなら、ナビがどこに連れて行ってくれるのか、見届けてみよう、ということにして、ナビの案内についてゆく。
ナビが「案内を終了します。運転お疲れ様でした」と言うところまで行ってみると、昔の民家が見学できる施設の駐車場に辿り着いた。施設見学は無料で、手作りの和紙小物を持って帰る人は「心づけを入れてください」と書いて貯金箱風にしてあるヨーグルトの空パックがおいてある。「和紙小物はいらないけれど、心づけだけ入れて帰る」と、夫は小銭をちゃりんと入れる。
この場所は、昔の宿場町のようで、当事の宿(しゅく)の様子を地図にした看板が駐車場近くに立ててある。それと並ぶように、「蒟蒻専門店はこちらです」という地図も表示されている。きっと、ナビの案内で蒟蒻専門店を目指した人の多くがここに来て、蒟蒻専門店の場所を再び探すのだろう。
それでは、引き返して蒟蒻専門店に行きますか、でも、また人がいっぱいだったら、私は並ぶのも、人ごみの中にいることも、両方とも得意じゃないから、別のお店で別のものを食べようね、と話して出発。
実際、蒟蒻専門店に行ってみると、駐車場には、先ほどよりも、少し空きスペースが増えていて、これならまあ停められるかな、と安心して駐車。お店の敷地内に入ると、レストランのスペースで蒟蒻会席らしい食事を摂っている人たちもいれば、蒟蒻売店で蒟蒻製品を買い求める人たちもいる。
ここでお昼を食べるのは無理そうな混雑具合だから、とりあえず、玉蒟蒻だけ買って車の中ででも食べよう、ということに。玉蒟蒻売り場に行くと、玉蒟蒻の他にも、蒟蒻餅の磯部巻き風、蒟蒻餅の味噌田楽風、蒟蒻の揚げタコ風、などもあるのを見て、これも食べてみよう、ということになる。売り場のおねえさんにそれぞれ二本ずつ入れてもらう。売店の周りには、小さなテーブルと椅子もあって、そこに腰掛けて食べている人たちもいて、夫が「ここで食べていけば?」と言うけれど、「私はもっと人の少ないところのほうがいいから」と、ぐんぐんとお店を出てゆく。野外のスペースにちょっとした台に赤い布をかけて座れるようにしてある場所があり、そのあたりは人が少なくて、ここならいいかな、と座ってみる。いいかんじ、いいかんじ。さっきおねえさんが入れてくれたプラスチックパックを開いて、まずはタコから。蒟蒻なのにタコみたい。本当のタコも入ってるのかも。次は、蒟蒻餅を。醤油味も味噌味もおいしい。餅米も使ってあるのかなあ。かなりモチモチするね。さて、最後に念願の玉蒟蒻。夫が「あ。ここの玉蒟蒻は一個多い」と発見する。夫がこれまで山寺と上山城で買い食いしてきた玉蒟蒻は、一串に玉蒟蒻が三個刺してあったのが、ここのは四個、なのだそうだ。味付けはおでんのようなだしの味。これで私の玉蒟蒻欲も成就して満足。
夫が何度も「おいしいなあ」と言うので、「ね。私が蒟蒻好きなのがわかるでしょ」と返すと、「こういうところで、こういうふうに食べるとおいしのはわかるけど、普段家で自分で買って料理してたくさん食べたいというわけではない」と蒟蒻ファンへの道を拒む。
店頭で、蒟蒻ゼリーの試食販売をしているおにいさんから、試食用ゼリーを分けてもらう。ゼリーといっても、一度凍らせたものを半解凍してあって、シャーベットのようなジャムのような食感。味はリンゴと桃の二種類。ひんやりとしておいしくて、職場へのお土産はこれにしよう、と決めて買い求める。
蒟蒻だけでは、お昼ご飯には足りないから、こんなときにはお蕎麦屋さんに行きましょう、ということにする。そうそう、お蕎麦屋さんに行く前に、宿から坂道を下りきったところにある「みそまんじゅう」のお店でみそまんじゅうを買っておこう。明日の朝ごはん用に。
みそまんじゅう屋さんでは、みそまんじゅうと、くるみゆべし(岡山のゆべしではなく、ういろうのような鯨餅のようなむにょむにょしたお菓子)に似た菓子を買う。そのままお蕎麦屋さんに向かうと、ここの駐車場も八割がた埋まっている混み具合。でもまあ、さっきの蒟蒻で、ある程度お腹も落ち着いているし、待ち時間も別に苦じゃないから、ここのお蕎麦屋さんにしましょう、と車を停める。
お店に入ると、畳の間に案内される。夫は「板蕎麦」を、私は「あたたかい山菜蕎麦ねぎ抜き」を注文。お昼ごはんのお客さんたちが食べている蕎麦はどれも緑色。「ここのお蕎麦は緑色なんだね」と話しながら出来上がりを待つ。板蕎麦は、ざる蕎麦の量が多いものが板状の容器(底にすのこが敷いてある)に入っていて、延々、お蕎麦。山菜蕎麦のお蕎麦もやはり緑色で、山菜がおいしい。夫は、「緑色じゃなくて、灰色というか茶色というか、そういうおいしい蕎麦が食べたい」と言いながらも、板蕎麦完食。
「お腹もいっぱいになったし、宿に帰ってお昼寝でもしますかね」と夫が言い、「じゃあ、そうしましょう。まだ三時前だけど、私はこれからゆっくり宿のお風呂に入るよ。今なら、他のお客さんと混み合わないし。髪の毛をゆっくりじっくり洗いたい」と、私は答えて、宿を目指す。
宿の部屋に戻ると、夫はお布団を延べて、お昼寝の体勢に入る。私はしばしお茶を飲んだり、みそまんじゅうをひとつ食べてみたりする。みそまんじゅうの味噌は白餡で、たぶんこの餡の中に味噌が入っているようではあるのだけど、あんまり味噌味がわからない。饅頭の皮のおいしさに関しては、月岡温泉の饅頭のほうが勝ってるかんじだ。
お風呂には、誰もいなくて、湯船のお湯にうつぶせになって、浴槽の淵を手でつかんで、体を浮かせながら温まる。持参のシャンプーで丁寧に頭を洗ったら、持参のトリートメントを染み込ませて、その間に顔や体を念入りに洗う。トリートメントを流し終えたら、また湯船に浸かる。温泉続きで、膝の怪我もだいぶんよくなったよなあ、と、自分の膝に話しかけながら、手のひらで膝にお湯をかける。
お風呂から上がって、脱衣所で浴衣を羽織る。ここの脱衣所の洗面台に設置されているドライヤーは、我が家のものと同じタイプだから、私の剛毛もしっかり乾かしてくれそうだけど、湿気た脱衣所で立ったままで長時間ドライヤー作業をするよりは、部屋に戻ってコタツに座って、のんびりとお茶を飲みながら、持参の旅用小型ドライヤーで乾かすのがいい。旅用小型ドライヤーとはいっても、私の髪を乾かすのに十分な力のある頼り甲斐のあるやつだ。部屋ではルイボスティを繰り返しぐびぐびと飲む。夫の昼寝の寝息を傍に聞きながら、ぶおーっと髪を乾かしたり、クアオルトコースの復習をしたり、お湯でほてった体に風を通したりして、しっかり髪が乾いたところで、私もお布団に横になって、体をぐうーっと伸ばす。うーん、この時間から、こうやって、ごろりごろりとくつろげるから、連泊って大好き。