アスパラ押し寿司

五月三日旅記録。朝ごはんは、買い置きのみそまんじゅうと味つきゆで卵。二連泊した宿をチェックアウトする。私たちのチェックアウトは、他のお客さんたちに比べると遅い。私たちが、というよりも、私が遅い。宿でゆっくりと滞在することが好きだから、その宿が快適であればあるほど、できるだけ長い時間をそこで過ごしたくなるから、制限時間ぎりぎりまでを部屋でのんびりと過ごす。宿を出る前に、宿の駐車場の看板の前で、夫が写真を撮ってくれる。この日も、いいお天気。山形県上山市にお別れを告げて、とりあえず、日本海を目指す。
交代で運転して、少し時間がたったあたりで、宿の冷凍庫で冷やしておいた蒟蒻ゼリーの試供品が半解凍になったものを、車中にて、午前のおやつとして食べる。今日くらい気温が高いと、冷たいものがおいしいなあ。お昼ごはんは何にしようか、と相談しながら移動する。新潟から山形に向かって来るときには、あんなにたくさん、あちらにもこちらにも、山菜料理のお店があったような気がするのに、反対方向を向いて走ると、なかなか山菜のお店と出会わない。この時期だから、山菜食べたいんだけどなあ、おいしいお蕎麦と一緒にでもいいし、山菜の炊き込みご飯でもいいし、と、話しながら念じながら走行するけれど、出会えないまま。それなら、ここまで来たのであれば、アスパラまつり加盟店のアスパラ押し寿司を食べたいなあ、と思いつき、ナビにそのお店を設定する。夫は、あまり、アスパラ押し寿司には興味がないらしく、「途中で他に食べたいもののお店が見つかったらそっちに入りたい」と言うので、「そのときにはそうしよう」ということにしたけれど、結局設定したとおりのお店に到着。
お寿司屋さんでメニューを見て、夫はいろいろ迷った結果、自分もアスパラ押し寿司にする、と言う。けれどメニューには、アスパラ押し寿司は載っていなくて、私は持参の「食のアスパラ横丁めぐり」(私が勝手に「アスパラまつり」と呼んでいるもの)のパンフレットを取り出して、お店の人に、「これに載ってるアスパラ押し寿司をお願いします」と注文する。「少し時間がかかりますけど、お待ちいただけますか」と言われるけれど、了承快諾。
待ってる間に、おかみさんが、「ご注文ありがとうございます。こちらのアンケートにご記入をよろしくお願いします」と、アスパラまつりのアンケート用紙を持ってこられる。「新発田産のアスパラガスを食べたことがありますか」「地元(新潟市新発田市の)スーパーで見かけたことがありますか」「購入したことがありますか」などなどに、「はじめて」「地元スーパーには行ったことがない」「購入したことはない」と答えてゆく。「その他何でもご自由にお書きください」の欄には、「アスパラ好きとしては、旅先でたまたま、こういう企画と出会えてうれしかったです」と書き込む。
ほどなく、アスパラ押し寿司登場。蒸してあると思われるアスパラをのせた押し寿司と、チーズをはさんでマグロをのせてある押し寿司の二種類が、彩りよく並ぶ。その頃には、他のお昼ご飯のお客さんたちの多くは、食事を終えて帰った状態。少し余裕のできたらしい大将が、アスパラ押し寿司開発の苦労を聞かせてくださる。アスパラ好きとしては、もっと大量のアスパラをのせてもらいたいところだけれども、これ以上のってたら、やっぱり食べにくいんだろうな、と思いながら、おいしくたいらげる。
レジで、アスパラまつりの加盟店シールを貼ってもらう。これでシールが二つ集まった。レジで私が、おかみさんに、「とてもおいしいアスパラですけど、このへんのスーパーでは、普通に売ってて手に入るんですか?」とたずねると、「売ってはいるんですけど、値段がちょっと高くて、なかなか手が出ないんですよ」と教えてくださる。
「私が住んでるところでは、アスパラ一束百何十円かくらいなんですけど、それよりも高いんですか?」
「高いですねえ。倍かなあ、もうちょっとするかなあ、どうかなあ。生産量日本一なら、もっと地元の人が食べやすいといいんですけどねえ。新発田産のは高いから、自分ちで食べるぶんは、やっぱり長野産なんかの一束百何十円かのものにしますねえ」
「そうなんですか。高価なんですね。でも、たしかに、味も食感もしっかりとしていておいしいです」
「気に入っていただけたなら、よかったです。シール、あと一枚で、プレゼント応募できますからね。よかったらためて応募してくださいね。ありがとうございました。どうぞお気をつけて」
おいしかったね、お腹いっぱいになったね、と話しながら車に戻る。夫が、「食後のデザートにアスパラジェラートを食べに行こう」と言い出す。アスパラジェラートのお店も、アスパラ加盟店のひとつだ。ただし、場所が、少しばかり、山形方面に引き返したところにあるから、私は思いつかなかったのだけど、スタンプやシールやポイントを集めることが好きで上手な夫の収集家魂にとっては、少々引き返すことくらいどうということはないらしい。もちろん、私も、何か特別予定がある旅路ではないし、アスパラ好きとしては、アスパラジェラートも気になるし、と、いうことで、ジェラート屋さんを目指す。
お寿司屋さんから、車で三十分くらいだろうか。ジェラート屋さんは、田園の中に忽然とあるかんじなのに、駐車場にはお客さんたちの車がたくさん。店内も八割以上満席。私は、アスパラジェラートと枝豆ジェラートを。夫は、アスパラジェラートとミルクジェラートを。三枚目のシールをもらって、所定の位置に貼ってもらう。三枚たまったら応募できるから、当選したときの品物の送り先情報を書き込んで、応募希望の旨を伝えて、お店の人に回収をお願いする。どのジェラートもおいしかったけど、一番おいしかったのは、ミルクだった。こういうものは、あまり奇をてらわない、スタンダードが結局王道のような気がする。
お腹いっぱいになって、再び運転開始。
「すごいね。月岡温泉でアスパラボンゴレ食べたときには、シール三枚ためるなんて無理、と思ったけど、たまったねー。どうやらくんの集め上手のおかげじゃねー」
「俺も、月岡でシール貼ったのをもらったときには、無理だからいいです、いうて断ったけど、お店の人が、いやいや、けっこうたまりますから、お寿司とか、お菓子とか、いろいろあるんで、ぜひためてみてください、いうて渡されて、受け取ったものの、やっぱり無理と思ってたけど、たまったなあ」
「当たるんだったら、私は、新発田産アスパラガス1kgがいいなあ」
「地元商店街商品券は、当たってほしくないなあ」
「そういうのは、地元の人に当たってあげてほしいよね。ところで、今日はどこまで行きますかね」
「まあ、いったん、高速に乗って、走りながら、混み具合や時間のかかり具合の様子も見ながら、ゆっくり考えながら、ということで」
「はい、そうしましょう」
と、相変わらずの、だらだらぶり(古式ゆかしく由緒正しい行き当たりばったりぶり)で、再び走行開始。今日はどこまで行くのかな。