一泊三千五百円

五月三日午後旅記録。山形から新潟に向かっての道路は、どこも特別な混雑はなく、スムーズに進む。北陸道から関東地方に分岐するあたりのごく一部で若干交通量が多くなるけれども、渋滞というほどではない。その分岐エリアを通過すると、さらに交通量は少なくなる。三時前後にいったん高速道路を下りて、海辺の町の案内所にて民宿をあたってみるけれど、どこも満室ということで、この町を通り過ぎる。新潟県直江津あたりにしてみましょうか、という気分になったので、とりあえず直江津駅を目指す。直江津には、ずいぶん前に、一度一泊したことがある。そのときは、佐渡島(さどがしま)行きのフェリーに翌朝乗船するための前泊で、郊外のビジネスホテルを利用した。今回は、駅の案内書で宿泊施設一覧表をもらって、なんとなくここがいいかなあ、と思うところに、電話をかけてみる方法で宿泊先を探す。二軒くらいかけてみたところ、両方とも満室ということで、それじゃあ、少し、通りから奥まったところにあるここならどうだろう、と、地図を見ながら夫が電話をかけてみたら、狙い通り空室があり、予約完了。素泊まり一泊一人三千五百円。今回の旅行中最安値を更新。
「もう直江津駅まで来ていますので、五分前後で到着します」と電話を切って、宿に向かう。宿の前と裏側に駐車場があるが、まだ早めの時間だからか、前側の駐車場が全部空いていて、宿のおじさんが「ここの白線の中に停めてくれたらいいよ」と説明してくださるから、そうする。
建物の一階は、フロントと食堂。二階以上に客室があり、東側はシングルの洋室で、西側に和室が並ぶ。私たちの部屋は、三階の北端の和室。六畳と縁側とがあり、洗面台とトイレは別々に各階共用のものが各階の南よりに設置してある。洗面台はお湯もちゃんと出て気持ちいい。お風呂は女湯は二階の二ヶ所のどちらに入ってもよくて、男湯は別棟の二階にある。室内設備に茶器はあるものの、お湯のポットがなかったので、車内からサーモマグを取ってきて、フロントでお湯をもらえるところを尋ねる。「各階の端っこに、給湯設備があるけど、今からポットに入れて持っていってあげるから、部屋で待っててくれたらいいよ」とおじさんが言うのでそうする。しばらくすると、宿の女性が、お湯の入った保温ポットと、揚げ煎餅を二袋のせた小さなお皿を持ってきてくださり、「お二人なんですね。追加の浴衣を持ってきますね。お布団もあとで二人分ご用意しますね」と声をかけてくださる。一泊三千五百円のわりには、けっこう面倒見がいいなあ、と感心する。
同じ階の向かい側の部屋には、どこかのスポーツクラブの顧問か監督かコーチの先生が泊まっているらしい。ドアが開け放たれていて、私たちの部屋も窓とドアを開けて風を通しているから、お向かいの声がよく気こる。部屋には、入れ替わり立ち代わり、中学生くらいの年頃の女の子たちが一人一人入って行っては、今日のよかったところと反省点と明日の課題を先生から聞いて、「ありがとうございました!」と元気よく挨拶して部屋を出て行く。詳しい内容は聞こえないから、何のスポーツの選手たちなのかまではわからない。
夫が先にお風呂に入ってくるというので、私は部屋でお茶(緑ルイボスティ)を飲んだり、洗面道具やスキンケア用品をテーブルの上に使いやすく並べたりして過ごす。夫がお風呂から帰ってくる。男湯のある別棟は、思った以上に遠くて、「お風呂が広いのはうれしいけれど、あの遠さは面倒くさい」と夫が言う。私は二階の女湯の左側の方に入る。誰もいない。洗い場は二つで、湯船は家庭用の倍くらいの大きさ。汗を流してさっぱりする。夕方が少しずつ薄暗くなる。
部屋で少しくつろいだら、そろそろ、明日の朝ごはんの買い出しと、夕ご飯に行きましょう、と、出かけることに。今夜は何を食べよう。久しぶりに日本海のお魚食べたいね。フロントに鍵を預けて、「夕食に出かけてきます」と声をかけて出かける。いってきます。