未だ見ぬセパタクロー

五月三日夜旅記録。夕方から夜に変わる薄暗さの中、小さなスーパーかコンビニを探して歩くけれど見つからず。代わりに駅の売店で、翌朝用のパンとゆで卵を買う。その袋を持ったまま、夕食用のお店を物色。この町の、駅前のこのあたりは、飲食店がいろいろあって愉しい。今朝までいた上山市は、旅館での食事を中心に考えた観光業展開なのか、旅人がふらりと入りたい飲食店があまりないのが特徴だったけれど、この町は外食に対するわくわく感がある。もちろん、宿で食事を出してもらうことはできる。私たちが出かけるときにも、宿の食堂では、スポーツクラブの選手女子学生さんたち二十名前後が、大食堂で夕食を食べ始めていた。
通りを歩いていると、夕方駅から宿泊問い合わせの電話をかけてみたときに満室だった旅館の玄関に、スポーツ選手団体風の運動靴が何十足も並んでいる。この町では、この連休に、何か大きなスポーツ大会があるのかもしれない。旅をしていると、こういうことが、ときどきある。観光地として大繁盛しているところではないけれど、スポーツイベント関係者で、その町の宿泊施設の大半が埋まる現象。
三連休の初日ということもあってなのか、大学生くらいの集団、少し久しぶりに会う高揚感をまとった集団、県外などに出て行った同級生が帰省するのに合わせて集まったんだろうな、というかんじの集団が、いくつかの手ごろな値段の居酒屋さんの前にいる。
私たちは、あんまり席数の多くない、魚居酒屋さんに入って、L字型のカウンターの端っこに座る。カウンター席が七席か八席、二人で向き合って座ってちょうどいい大きさの座敷(四人だときつそう)が二つ、くらいのこじんまりとしたお店。私たちよりも十歳くらい年上かなあもう少し年上かなあ、というかんじの男性一人と女性一人が、お店をきりもりしている。
久しぶりに日本海の魚を食べたいから、と、お刺身の盛り合わせを注文して、飲み物をどうしようか迷う。夫は「今日は生ビールの中ジョッキに決めている。ちょうどそういう気温と湿度だから」と言うけれど、私はあんまりビールは飲めなくなってるし、どうしようかなあ、と考えて、「梅酒ありますか?」と訊いてみる。
「梅酒はないわあ」
「そうですか。チューハイは何ができますか?」
「そうやねえ。レモンかライムか、あ、梅酒はないけど、梅干ならあるから、梅のチューハイもできるよ。それにする?」
「いいえ。えーと、じゃあ、ビールを少しだけ飲みたいので、分けてもらうようにグラスをひとつ、って、どうやらくん、瓶ビールじゃなかったんだっけ?」
「うん。もうジョッキで頼んだ」
「そうか、じゃあ、えーと、どうしよう」
「ビール少しがいいんやったら、小ジョッキがあるけど、どう?」
「あ、じゃあ、そうします。小ジョッキでビールください」
「はいよ」
夫が、「あまったら、俺が飲むから、飲めない分は残せばいいし」と言うので、安心して飲み始める。
ところが、久しぶりの生ビールが、この日は妙においしくて、こっくこっくこっくこっく、といっきに九割方飲み干す。あれ? 飲めた。今日は飲める体なのかも。おいしい。すぐに出てきたお刺身を一口食べて、またビールを飲むと、ジョッキの全てを飲み干す。おいしかったから、もう一杯頼むことにする。私が、「なんだか、中ジョッキよりも、小ジョッキはおいしい気がする」と言うと、夫が「そりゃあそうじゃろう。注ぎたてのおいしい状態のをおいしいうちに飲めるんだから」と言う。
お刺身のあとは、焼き油揚げ、焼きアスパラガス、ノドグロ(小さい)焼き、子持ちカレイの煮付け。どれもおいしくいただく。料理ができるのを待つ間は、カウンターに置いてある上越市の広報誌を読んで、上越市のいろんながんばる様子に感心したり、セパタクロー大会のパンフレットを読んで、セパタクローについて勉強したりする。
「今泊まってる旅館の、女子学生さんたち、セパタクローの選手かな?」
「なんで?」
「今日から、この町で、セパタクローの大会があるって書いてあるから」
「中学生でセパタクローって、渋すぎるやろう。また別の試合なんちゃう?」
「そうかなあ。そうかもねえ。パンフレットに載ってるチームの紹介文は、社会人や大学生が中心っぽいしねえ」
そんな話をする横で、夫の左側に座った若い男性が、私たちが食べてるものを見ては、「これと同じのお願いしていいですか?」と注文して、一人で飲んだり食べたりしている。さらにその左隣には、もっと年上の男性が一人で座っている。その人も魚中心のメニューを食べては、地元の日本酒を飲む。しばらくすると、その二人が、なにやら会話を始めて、それぞれに一人旅で来ていることがわかる。今回の旅のことや、これまでの旅のこと、今後の計画など、話がだんだん盛り上がり、お互いに自分のブログのURLを紹介し合っている。おお、旅先での初対面の人に、自分のブログを紹介する文化は、私にはないなあ、と思いながら、小耳を傾けながら、引き続きセパタクローの勉強も。
出てきた料理を全部食べたから、炭水化物を何か食べよう、ということにして、夫はラーメンを、私は鮭茶漬けを注文。夫は、ここのラーメンをいたく気に入り、おいしいおいしい、と言いながら食べる。おなかいっぱいになったね、帰ろうか、と話して、ごちそうさまでした、と会計をしてもらう。お店を出て、「おいしかったね。体が魚に満たされて喜んでるね」と、少し酔ってご機嫌で軽い足取りで宿に戻る。
部屋に帰ると、二人分の寝床が延べてある。三千五百円なのに、お布団まで敷いてもらえるんだねえ。安いところだと、お布団敷くのセルフのとこもあるのにねえ。夫はしばらくテレビを見る。私は、緑ルイボスティの味も香りもしなくなったところで、ラサラティに変えてお茶を飲む。合間にお布団に横になって、中山式快癒器を背中や腰や首筋や後頭部にあてる。この旅行中ずっと、体調よく過ごせたのは、中山式快癒器を宿に持ち込んでは、毎晩背骨(仙骨や骨盤も含めて)のメンテナンスを行ったおかげのような気がする。荷物としては少しかさばるけど、こんなにずっと体調よく、一度も頭痛もなく、快適に過ごせるなら、今度から、車の旅には、いつも同行してもらおうと思う。
しばらくすると、夫は、もう一度お風呂に入ってくる、と言う。私はゆっくりと歯磨きをして、デンタルフロスをかけて、洗面台のお湯でうがいして、顔を洗って、基礎化粧品で肌を整える。足の指の間と足の裏を、清浄綿で拭いてさっぱりしたら、寝間着に着替える。またもうしばらく、快癒器に体を預けて、呼吸の深さを堪能する。ここまで無事に戻ってこれて、よかったね。明日の家までの運転も、この調子で安全運転でがんばろう。明日は、帰り道途中にある「たら汁エリア」の食堂で、お昼ごはんに「たら汁」と「とんかつ」を食べるのが楽しみ。