怪談レストラン

夫が一人で観に行った映画。「お子様向けの映画であるらしいことは知ってはいたけれど、それでもドラえもん的なものであればそれなりに楽しめるかもしれない、と少し期待したのだ」と夫は言う。「映画館で席に着いて周りを見渡した時点の客層で、ああ、これはだめだ、とは思った。お客さんのほとんどが、大人に連れてきてもらった小学校低学年くらいかもっと小さい子ばっかりだった」のだそうだ。
そして「怪談が全然ちっとも怪談じゃなくて、でも小さいお子様にはたぶん十分怪談なんだけど、これまで映画館で映画をいろいろ見てきた中で、今日ほどよく眠った映画は初めて。ああ、よく寝た。ほんとうによく寝た」と感慨深げだ。
「どうやらくんのいびきが、周りのお子様たちの映画鑑賞のご迷惑になってなかったらいいけどなあ、と、ただそれだけが気がかりだわ」と私が言うと、夫は「それは大丈夫。あの角度の椅子に座った状態ではいびきは出てないはず」だと言う。
けれど、これまで、どんなときにも、ほとんどの場合、いつだって、自分のいびきの音の存在に気付くことなく生きてきた、そんな夫が自信ありげに「それは大丈夫」と言えば言うほど、妻の疑念はさらにいっそう高まりゆくのであった。