咲花温泉朝ごはん

五月二日朝。朝食は広間で朝八時から。そのまえに、朝のお風呂に入って、緑色のお湯にまたつかる。
わたしの身体にとって規則正しい生活習慣としては、旅館の朝ごはんのようにしっかりとした朝食は摂らないほうが体調がよい。一般的に「身体によい」と言われていることが必ずしも自分の体にも適しているとは限らないもので、自分の身体にとっての「身体によい」形は自分の身体を観察したり相談したりした結果で選びたい。
旅の時にも、起きたらまず、500cc弱の温かい豆乳紅茶をぐびぐびと飲み、愛用のサプリメントを大切に飲んでから、少量のパンか、ビスケット、おまんじゅう、などを数個だけにして、あとはお昼ごはんを早めにしっかり食べるようにすると、旅先のお昼ごはんがたのしく、そして体調が良い。
しかし、今回は、食事の五葷抜きリクエストにエネルギーを注いだため、一泊夕食のみ朝食なしのリクエストをするのが面倒くさくなり、そのままでいいや、ということにした。
どこのホテルでも旅館でも民宿でも、わたしの朝の定番飲料である500cc弱の温かい豆乳紅茶を起き抜けに出してはくれない。だから、わたしは旅行の時には、容量400ccくらいのマグカップと紅茶のティーバッグと200ccの紙パック豆乳を持ち歩く。豆乳は現地調達することもある。いつも自宅でそうするように熱いお湯を注いだ紅茶に豆乳を入れた豆乳紅茶をいっきに200ccほど飲み睡眠中に乾いた身体を潤して、残りの豆乳紅茶でサプリメントを飲んでから、大広間に向かう。
五葷抜きリクエストが朝食にも反映されるかどうかが気がかりであったけれども、これも見事に応えてあり、感心する。わたしだけの膳を五葷抜きにしてあるわけではなく、夫の膳も、他のお客様の膳も、すべて、五葷なし。みそ汁にも小口ネギが入っていない。それでも誰も何も不自然に感じないような構成になっている。
朝食で一番最初に手をつけたのは、ヤスダミルクのプリン。本来であれば、これはデザートなのかもしれないが、果物や甘物は食事の前に食べておくほうがその後の消化の調子がよい。この小さなプリンを三個くらい食べれば、それが朝食としてちょうどよい量と内容になるのだが、プリンは一人一個ずつ。ここで無理せず他のものを殆どすべて残す、ということが、未熟なわたしにはまだできず、膳に供されたものはできるだけ食べてしまうのが、朝ごはん付きにした場合の加減の難しいところだ。
朝食を終えて部屋に戻ると、お布団はもう片付けてある。縁側の窓を全開にして、外の空気を大きく入れる。ちょうど桜が散っている時期だから、杉の花粉も舞っている時期なのだろう。夫もわたしも4月上旬から中旬のような鼻水の出方になる。
食後にゆっくりと歯をみがいたりフロスをかけたりして、出立の準備をする。
会津地方のガイドブックを見ていたら、炭酸水が湧いている地方があることを知る。飲用にボトルに詰めて販売されてもいるし、入浴の温泉施設もあるらしい。
最近にわかに炭酸水を飲むことが好きになり、今回の旅にも、炭酸水の500mlペットボトルを五本くらい連れて行き、車中や宿で飲むほど。
旅先で、おいしい炭酸水に出会える、ということであれば、行かねばなるまい、と、炭酸水の湧く大塩温泉を目指すことにして、大塩温泉にある旅館に電話をかけてみる。当日の電話にもかかわらず、問題なく予約が取れる。一泊二食一人8000円。ネギタマネギニラニンニク抜きのリクエストに対しても「はいはい、わかりましたー」とたいへん気軽に了解してくださる。
九時半過ぎにチェックアウトするときに、フロントの一角に里芋が飾ってあることに気づく。手の拳くらいの大きさの里芋がくっつきあった塊が大きなお皿に入れてある。うわあ、これが帛乙女かあ、と、感心しながら、しゃがんで見入る。
宿の人達にお礼と挨拶を伝えて、桜の花びらが舞う中、咲花温泉をあとにする。