大塩温泉の次の地へ

五月三日朝。朝食前に部屋で豆乳紅茶を飲む。保温ポットでぬるくなったお湯を湯のみに入れて、持参の電熱湯沸かし器を浸して沸かしたお湯を使って作った豆乳紅茶。大塩温泉の朝ごはんは、昨夜と同じ大きな広間で夫とふたりきりでいただく。地元お野菜と山菜などのおひたしや和え物とご飯とお味噌汁。五葷は完全に抜いてあるのがありがたい。
「食事が済んだら珈琲をお持ちしますので、声をかけてくださいね」と案内をもらっていたから、食後に珈琲をお願いして、久しぶりに珈琲を飲む。夫は自宅でも毎朝インスタント珈琲を飲むけれど、わたしは珈琲があまりうまく消化できない身体になっていて、年に数回、あ、今日は飲める、という直感が働いたときのみおいしくいただく。そしてこの日は「あ、今日は飲める」の日だったから、おいしくいただいた。
部屋に戻って、少しずつ荷造りをする。貸し切りで快適だったけど寒かったね、と話しながら。夫が「今日はどこどこに行こうかと思っていたけど、やっぱりここにしようかと思う」と言うから、「どこでもいいけど、ここよりも温かいところで、そろそろ快適なお布団でしっかりと眠ったほうがいいかんじ」と話す。
宿をチェックアウトするときに、宿のおじさんに「ここは冬はどのくらい雪が積もるんですか」と訊くと、「だいたい三メートルくらい」とのこと。「雪かきのためのトラクターみたいな機械を買うのにもお金がかかるし燃料が要るし、雪の多いところに暮らすのは物要りですわ」と話される。
駐車場の桜は今日も咲いていない。宿のおばさんが「今年は春が遅くて。例年なら五月の初めは、山の残雪を背景に桜を見てもらえる一番いい時期なのに」と残念がられる。
宿の前に郵便ポストがあるから、ここで昨夜書いたハガキを投函。
駐車場を出て、夫が案内する方向へ走っていくと、どんどんどんどん雪が深くなって、気温がどんどん低くなって、旅行前から抗生物質で治療中の歯肉炎のうずきと痛みがひどくなる。夫に「こちらの行き先は、大塩温泉よりも温かいところなのか」と確認すると、「大塩温泉より秘湯だから、たぶん寒いんじゃないかなあ」と言う。「どうやらくん。わたしはね、歯肉炎の具合がよくないの。一昨日も昨日も睡眠が十分でなくて、歯肉的に限界だから、どうしても今夜は大塩温泉より温かいところでぐっすり寝たいの」と主張する。夫は「じゃあ、昨日来た方向に戻って、当初予定してた西山温泉にしましょう」と言う。そのまえに、会津地鶏も食べておこう、と、地鶏を食べられる食堂を目指すことに。
しかし、その食堂まで、ナビでは辿りつけなくて、周辺で迷子になる。前日、玉こんを食べた施設にて、地元の職員さんに、地鶏屋さんの場所を訊ねる。とてもわかりやすく、しかも近道を、教えてもらえて、そこからは異様にスムーズに地鶏屋に辿り着く。
地鶏屋さん、といっても、建物はログハウス風で、メインのメニューは手打ちそば。カレーもある。そして地鶏定食や地鶏フライ定食などもある。わたしは地鶏(地鶏の塩焼き)定食をネギタマネギニラニンニク抜きで注文し、夫は鶏の胸肉フライ定食を注文。鶏肉部分をシェアしながら食べる。おいしい、おいしい。山菜欲も満たされたし、会津地鶏欲も満たされてよかったね。でも、わたしたちの年齢が、以前秋田に行った時よりも高くなったからかもしれないけれど、地鶏のおいしさに関しては、秋田の比内地鶏の感動のほうが大きかったなあ。
お腹いっぱいになって、西山温泉を目指す。大塩温泉から離れるに従い、気温がどんどん高くなり、身体が寒さでこわばっていたのがほぐれてくる。暖かくなると、歯肉の痛みも和らぐ。身体にとっては、寒いのも暑いのも負担が大きいことで、何かを治そうとするときには、寒くもなく暑くもないのがいいのだなあ、と思い知る。
車についているナビさんの案内に従って、西山温泉までの道を、冬がすこしずつ春に変わる景色を眺めつつ、走る。