会津若松の薬局で

五月四日午後。宿に車を停めて、お昼ごはんのお蕎麦屋さんを探す。会津若松駅の前から隣駅までの間に連なる商店街を歩く。しかし、祝日ということもあるからなのか、お休みのお店が多い。駅の観光案内所で教えてもらった薬局もお休み。あ、お蕎麦屋さん、と思って見つけてもお休み。
しばらく歩くと、駅で教えてもらったのとは別の薬局が開いている。ああ、よかった、ここで相談しよう、と、店内に入る。
「歯茎が痛くて、イブプロフェンではもう少し痛みがやわらがないので、ロキソニンを使いたいのですが、こちらでは一類医薬品も置いていらっしゃいますか」
「はい。ロキソニンでしたら、こちらに。ロキソニンは、これまでにも飲まれたことがありますか」
「はい、あります」
「では、もうよくご存知だと思うのですが、一応ロキソニンを販売するときには、こちらのリーフレットに書いてある説明を口頭で行う必要があるんですが」
「はい、そうですよね。できれば、その説明もどのようにしていただけるのか、勉強も兼ねて伺いたいところではあるのですが、実は旅行中でして、少し先を急いでおりまして、さらに実はわたくし自身が薬剤師でもありますので、そこは省略してくださっても差し支えないかと」
「あ、そうですか、それなら、省略、ということで」
と互いに会釈し合う。
「あとは少し効きのしっかりした貼り薬がほしいのですが、ボルタレンテープはありますか」
「すみません。ボルタレンテープは売り切れてしまってまして、一類のだと、ケトプロフェンだけなんです。あとはニ類のフェルビナクか、インドメタシンというあたりですかねえ」
「そうですか。フェルビナクは上半身に用いるとどうしても咳が出るものですから、うーん、どうしよう。では、ケトプロフェンのをください」
こうして、ロキソニンとケトプロフェンパップを購入。これで歯肉の痛みが歯肉にとどまらず、顎の骨にまで痛みをおぼえているのを、とりあえず痛みを和らげてぐっすり寝て体力気力を回復するのが円滑になるはず。
歯肉の奥の一時的な感染で炎症を起こしているだけの痛みのはずなのだけど、顎の骨まで痛みがあると、口腔がん、だったらどうしよう、面倒くさいな、という思いが湧く。わたしのおば(父の姉ですでに他界中)が口腔がんを患って手術や抗がん剤での治療を行った背景があるため、遺伝的な要素のことを鑑みると、自分も常にこころづもりはしておこう、という気持ちがあり、他のがんに対してよりも口腔がんに関しては、少しばかり神経質な部分がある。
痛みが強いと体力気力が低下しやすいぶん、「よーし、なおるぞー、おー!」な気持ちよりも「これががんだったら」という思いのほうが大きくなりやすい。その思いがまた体力気力の低下を促す循環がぐるぐる回る。だから、とりあえず必要以上の痛みを緩和してから、いったん「よーし、なおるぞー、おー!」という気概を持って、そのうえで「がんだったら」についてはそれから考えるようにしたい。
買いたい薬を買ったことだし、ロキソニンを飲みたいし、少し遅めのお昼ごはんに会津のお蕎麦を食べたいし、お蕎麦屋さんを探しましょう、と、薬局を出てまた通りを歩く。