喜多方で田楽と佐世保バーガー

五月五日。会津若松の薬局で漢方薬を入手してから、夫の運転で出発。今日の逗留地は、福島県熱塩温泉。チェックインの午後二時までの時間をゆっくりと移動に使う。暑くもなく寒くもなく、日差しは眩しいほどの明るさで、桜が咲いているところもあれば、葉桜になっているところもあり、春のうららかさ満載。
道中どこか寄りたいところがあるか、と夫が訊くから、特別ないけれど、周辺施設としてナビに表示されている、このお寺に立ち寄ってみようか、と提案する。夫は、それはどういう寺なのか、なぜそこに寄りたいのか、というような意味の質問をわたしにする。どういう寺なのかはまったく知らない、今日はじめて見た寺社の名前で初めて知った存在だから。なぜそこに寄りたいのか、は、時間があって、通り道にあるから。
そのお寺の名前を入力したナビの案内に従って、そのお寺に到着する。わたしたちの他にはだれもいなくて、静かな小さなお寺。木々と葉と葉の間から透ける木漏れ日が温かい。境内をぐるりと散歩するみたいに歩いて、案内板の少し昔っぽい文字と文章を読んで、植物たちをひととおり眺めたら、出発。
夫がガイドブックを開いて「お昼ごはんに、ここで釜飯を食べたい」と言うから、今度はその釜飯屋さんを目指す。目的地に到着して、車を停めて、お店に入ると、お土産物屋さんの二階にあるその釜飯屋さんには、「本日は予約で満席となっております」の立て札が。念のため、一階のお店の人に訊いてみるけれど、やはり今日は予約客のみ利用可とのこと。
残念だったね、と話しつつ、「せっかく喜多方まできてるんだし、久しぶりに喜多方ラーメンでも食べたら?」と言うと、夫は「でも、ラーメン、みそきち、食べられんじゃん」と言う。
「わたしは食べなくても、どうやらくんは食べたらいいよ。わたしはコンビニおにぎりも好きだし、なにか別のものに出会えると思う」
「うーん、ラーメンよりも、蕎麦な気分かなあ。とりあえず、じゃあ、喜多方の町で探そう」
そうして喜多方の町に入ると、なにやら、催し物が行われている。臨時の駐車場が用意されている案内が出てきて、その案内に従って、大きな空き地の臨時駐車場に車を停める。そこからは徒歩で町の中へ。
町の通りは、一部通行止めにされて歩行者天国になっていて、ここでも、いろんな出店があって、そうか、五月五日だからね、とまた思う。
夫が「あ、おそば屋さん」と見つけるお店は、ことごとく閉まっている。ラーメン屋さんには、長い行列ができているお店があちこちに。にぎやかだねえ、と言いながら歩いていると、「玉こん」を売っているテントがあったから、わたしは玉こんを購入。一本百円なのだけど、小さいお金がなくて、ごめんなさい、一万円からでもいいでしょうか、と一万円を差し出す。お店の人は、いいですよ、と、お釣りのお札と小銭を数えてくれる。夫が「百円玉、持ってるから出すよ」と言って出してくれたから、一万円は返してもらう。夫は「食事前に玉こんは要らない」と言って食べない。わたしは「玉こんは、食事前の食事だよ」と言いながらおいしく食べる。
買った玉こんをベンチに腰掛けて食べる。その場所の建物は、食事を提供する施設であるようで、ここでお昼ごはん食べようか、ということになる。お店に入ると、「こちらは今満席ですので、向こう側の建物に案内しますね」と、開け放った蔵の中のような客席に案内される。蔵の中はひんやりとして涼しくて、眩しくて少し暑い外から入ると、身体がほうっとゆるむ。
メニューを見ると、夫が希望する蕎麦もあるけれど、わたしは田楽セットに惹かれる。田楽セットは二種類あり、安い方と高い方とあるのだけれども、高い方のセットは私が食べられないものが二種類入っているので、その二種類がない安い方を注文することにする。なぜか夫は「蕎麦ではなくて、同じ田楽セットを注文しておいて」と言って、「ちょっとそのへん見てくるから、もし、田楽来たら、先に食べてて」と外に出て行く。
田楽セットをふたつ注文して、出されたたぶんそば茶を飲みながら、わたしはテーブルでハガキを書く。「会津若松から喜多方に移動してきました。お昼ごはんは田楽セットです」とつらつらと書く。
田楽セットがやってきても、夫はまだ帰ってこない。では、先にいただきましょ、と田楽セットを食べ始める。田楽に塗ってある味噌は、この地方のジュウネン(エゴマ)味噌。おいしい。コンニャクと、里芋と、お餅と、あとなんだっただろう、全部で七種類くらいの串が四角なお皿にのっている。
おいしいなあ、と思いながら咀嚼していたら、夫が戻ってくる。手には何か持っている。
「あ。もう、田楽、来たんだ。お客さん多いから、なかなか来ないだろうと思って、もうお腹がすいて待ちきれないからと思って、屋台で売ってた佐世保バーガーを買ってきたのに」
「うん。田楽、おいしいよ。佐世保バーガーは久しぶりだね。喜多方で佐世保バーガー売ってるなんて、よかったね。バーガー先に食べて、余裕があれば田楽も食べれば? 田楽の食べきれないのは、わたし食べられるよ」
「じゃあ、そうする」
と夫は佐世保バーガーを食べ始める。佐世保バーガーは、通常千円のところ五百円で販売されていて、お客さんがたくさん並んでいるところに並んで買ってきたのだとか。佐世保バーガーでお腹が満たされた夫は、田楽を二三本食べて、もう食べられないからあとは食べて、と言う。わたしは喜んで、また、田楽のコンニャクと里芋と何かを食べる。
ごちそうさまをしたあとで、レジでお金を支払って、お手洗いを借りて、お店を出る。もと来た道を駐車場へと歩く。観光客風の人々の姿も多くて、喜多方大盛況だね、話しながら歩く。
駐車場を出て、ちょうどいい時間になったね、と、逗留予定の熱塩温泉に向かう。喜多方から熱塩温泉は、そう遠くない。二十キロないくらいではないかな。
早い時間に宿に入ってゆっくりと過ごすのが大好きなわたしにとって、午後二時チェックインの宿の評価は高い。さあさあ、行きますよ。