川下りのそのまえに

五月六日。夫はコロッケで、わたしは手作りクッキーで、お腹がおちついた状態で、福島県から新潟県へとつながる道をのんびり走る。福島県に滞在中なんども眺めたのは「只見川」という川だったけれど、新潟県で眺める川は「阿賀野川」。
今回の旅の一泊目に滞在した咲花温泉もこの阿賀野川沿いにある。あのときには、お天気が雨模様だったから、観光船での川下りを見送ったけれど、今日のこの快晴なら、水面も周りの景色もたのしいかもしれないね、と話し、阿賀野川川下りを途中でしましょう、ということになる。
道沿いにある川下り乗船所事務所のような建物の駐車場に車をとめて、建物に近寄ると、現在こちらでは乗船受付をいたしておりません、この先何キロのところにあるどこどこで乗船受付をしておりますので、そちらにお越しください、との案内が貼られている。
へえ、そうなんだあ、ということで、案内されている場所まで移動。その場所には、乗船場もあるけれど、おみやげ売り場、レストラン、喫茶店、地元工芸品展示場、などが入っている建物がある。
その建物の前の乗船案内所のおじさんに「次の船は何時ですか」と尋ねると、「お、二時の船が今でたかな、まだいるかな、ちょっと待ってよ」と内線電話で「二時の船、もうでたか」と確認される。結局二時の船はちょうど出航したところで、次の船は三時とのこと。チケットはこの案内所では販売されておらず、船着場で購入するよう案内を受ける。
一時間あるということは、ちょっとゆっくりできるね、ということになり、夫は「じゃあ、蕎麦を食べる」と言う。館内のフードコートのような気軽な飲食コーナーにて、山菜そばのチケットを券売機で購入して夫は山菜そばを食す。
そういえば、この近所にはヤスダ乳業があったのであった、と、ヤスダソフトクリームの存在を目にして気づく。わたしは「今日二個目のソフトクリームをいただきます」と決める。一日二個もソフトクリームを食べるなんて、くふふ、大人の旅だなあ、と思う。
ヤスダソフトクリームを食べ終えて、店内を見物していたら、おみやげコーナーのお菓子に「かりんとう饅頭」があることに気づく。今回の旅先では何度かこの「かりんとう饅頭」を見かける。最近流行りのお菓子なのだろうか。
ヤスダ乳業製品のヤスダヨーグルト各種を見ていたら、ヤスダ乳業のシュークリームを見つける。店頭ではアイスシューの形で販売されていて、自然解凍で中のクリームがアイスからクリーム状態に変わったら、シュークリームとして食べる。そのままアイスシューとして食べてもよい。
お店の人に「解凍時間は十分くらいでしょうか」と尋ねると「そうですね、今日は温かいから、十分くらいでちょうどよくなるんじゃないでしょうか」と言われる。では、とひとつ購入して、店内を見て回っている夫に「わたし先に船着場のところに行ってるね」と声をかける。
建物から船着場までは、もちろん歩いて行けるから、歩いて行って、アイスシューが解けるのを待ちながら、川沿いの岩に腰掛け、川を眺める。阿賀野川の川の水は濃い緑色。透明感のある抹茶のような色。
バッグの中からいつも持ち歩いているハガキを取り出して、川沿いで書き始める。阿賀野川の川下りに来たこと、水の色が緑色であること、アイスシューが解けるのを待っているところであること、など、別段重要な情報はなにもないハガキ。
わたしが座っているところにやってきた夫が「向こうから車をこっちに運んでくるね」と言って、自家用車に向かう。そうなのだ。もちろん歩いて移動できる距離なのだけど、川下りを終えたあとに、もとの車のところまで戻るのにまた歩くのは少し距離があるといえばあるかな、時間があるし暇だから、車を船着場間近の駐車場に持ってきておくと、あとがきっとラクだよね、というような距離。
夫は車を持ってきてくれたあと、乗船券売り場でチケットを買う。そのままそこのベンチに腰掛けて、船着場のスタッフの人と何か話している。ときどき「わはは」と夫が笑う声が聞こえる。
最初はわたしも乗船券売り場のベンチに座ってみたのだけれど、ビニールの屋根があるからなのか、なんだかずいぶんと暑かったのと、灰皿が置いてあるからそこから漂うたばこのにおいがつらかったのとで、そこに座るのはやめたのだった。
あ、川から船が戻ってきて、お客さんたちがおりてきた。おりたお客さんたちをお見送りしたあと、「清掃と点検をいたしますので、しばらくお待ちください」のアナウンスが流れて、そのまま座ってまたしばらく待つ。
ほんとうに、今日は川下り日和だ。川下り自体久しぶりだなあ。たのしみ、たのしみ。そうそう。アイスシューは食べた。しっかりと解けるのを待つ前に食べたから、アイスシューとシュークリームの間くらいのかんじだった。おいしかった。