アスパラ祭り本番

五月七日午後。
新発田産アスパラガスを購入したら、車に乗って自宅を目指す。途中で夫が「何かちゃんとしたものが食べたい。食べたほうがいい」と言うから、小さな中華料理屋さんに立ち寄った記憶があるのだけど、夫はそれは今回とは別のときのことだと言う。そうかなあ、そうだろうか。そのまま何も食事らしい食事を摂らなかったわけではないと思うから、途中の高速道路サービスエリアでなにか適当に食べたのかな。さすがに三ヶ月以上経つと、特定の日のお昼ごはんが何だったか思い出せないものだなあ。
でもとにかく、家に帰ったらアスパラガスを食べるのだから、そのつもりでお腹をアスパラモードにしておく。
運転は順調で、走行を進めるとともに風景がどんどんと自宅周辺に近くなっていくのだけど、東北の涼しい、一部雪が残るような寒い、そんなところから戻ってくると、北陸地方はなんと南国なのだろうか、と思う。
一週間家をあけていたから、日々の生鮮飲料、牛乳やりんごジュース、生鮮食材、ヨーグルトや卵やパンなどを少し購入してから帰宅。
家中の窓を開け放って、空気を入れ替えながら、家の中のいろいろに「ただいま、ただいま」と声をかける。夫が観葉植物たちに水を与える。それから私は、旅の間の洗濯物を洗濯機でがるがる回してじゃぶじゃぶ洗う。
ある程度洗濯機にお任せしたら、カバンから会津若松で買ってきたマグカップを取り出す。丁寧に梱包してある箱からマグカップを出して洗って乾かす。木のスプーンも袋から出して水でゆすいでから、布巾にのせて窓際の日当たりの良いところに置いて乾かす。夫が漆にかぶれる体質だから、漆塗りのものはこうしてお日様でしっかり乾かす。木のスプーンは私しか使わないけれど、なにかの時に夫も触ることはあるから、念の為に。
ひと通りざっと荷物を片付けたら、アスパラガスをザルに入れて水で洗う。大きめの鍋に水位低めでお湯を沸かす。鍋の中に「開閉式の蒸し料理用網」を開いて入れる。蓋をして熱湯の湯気が蓋をパツパツ持ち上げるまで待つ。その間に、アスパラガスを4cmくらいに切る。アスパラガスは鮮度が命。採取後の時間が経てば経つほど硬くなるから、とにかく入手後早く料理することが大切。というわけで、買ってきたアスパラガスすべてを洗って切る。四束だからだいたい二十本くらいだろうか。その二十本をカットした生のアスパラガスがこんもりと入ったザルに顔を近づけて、んんー、おいしそー、と悦に入る。
鍋のお湯が沸いたら、アスパラガスを全部スチームザルにのせて蓋を閉じる。蒸気がだんだんとアスパラガスのにおいを放ち始める。蒸しにムラができないように、ときどきアスパラを菜箸で動かす。
これくらいでいいかな、と思ったところで、アスパラガスをひとつつまんで食べてみる。うひゃあ、蒸したて、すごくおいしい、おいしいい、おいしいいい、くうううう、と、ガスコンロ前で地団駄をいったん踏む。そうしてから火を止めて、アスパラガスをお皿に入れる。お皿に山盛りのアスパラガスに軽く塩をふりかける。まだ湯気が出るアスパラガスを一切れずつ、ふうふうと冷ましつつ口に運ぶ。ふはあ、くはあ、たまらん。
食卓で一人アスパラガスに溺れる私を見た夫が、「そんなにおいしいん?」と近寄ってきて、一切れ食べる。「わ、うまいっ」と言ってまたひとつ、またひとつ、またひとつ、と、どんどん食べる。
そうやって食べていると、身体にアスパラガスがいっぱいに満ちてきて、とても満たされた満ち足りた気持ちになる。
ふたりとも、次から次へとやめられない止まらない状態で食べて、買ってきたアスパラガスを結局全部たいらげる。
ああ、アスパラガスだけなのに、本当によく食べたね、満足だね、買ってきてよかったね、と、アクアイズ(会津で買ってきた炭酸水)をくくっと飲んで、ごちそうさま。
月岡温泉で応募したアスパラキャンペーンの景品は、今回は当選するだろうか。前回は「アスパラくんのピンバッジ」が当たった、というか選にハズれたから参加賞としてピンバッジが送られてきた。前回の景品は、地元商店街で使えるお買い物券や、地元お野菜詰め合わせや、地元アスパラガス詰め合わせ、であったのだけど、地元商店街のお買い物券は地元の人にあたってほしいし、もらえるならアスパラガスの詰め合わせがいいな、と思って願って念じていた。しかしそこはそうは簡単に当たりはしなくてピンバッジだった。今回の景品は、アスパラガスキャンペーンなのに、新発田産アスパラガスの詰め合わせはなくて、地元商店街のお買い物券か、お野菜詰め合わせか、お米一年分か、参加賞か。夫とどれが欲しいかなあ、と、希望できるわけではないのだけど話し合う。
「お米なら、うちでもなんとかなるんじゃないかなあ」
「いいや、米一年分って、何キロかにもよるけど、うちにはぜったい多いって」
「でも、お米なら、たいてい誰でも引き取ってくれるし、お野菜と違って、大急ぎで配らなくても、ゆっくりの手配でいいじゃん。お野菜はお米よりも急ぎ目でお世話したり食べたりせんといけんじゃん」
「まあ、そうか、そうかな、じゃ、米で」
「って言っても、希望はできないんだけどね。参加賞もピンバッジじゃなくて何がいいかな、かさばらない、という意味では、ピンバッジ素晴らしいんだけど、お、いいね、というかんじではないんだよねえ」
「ピンバッジは、要らん」
ところで、月岡温泉で買ったアスパラガスのバウムクーヘンスティックタイプを食べてみたところ、アスパラガス、というよりは、限りなくケール(アブラナ科植物)の青汁なかんじであった。同じ青汁でも大麦若葉なかんじならもっと香ばしいのだろうけれど、夫と二人で味見をして、「こ、これは……」としばし押し黙る。いや、けっしておいしくないわけではないのだけれど、事前に味見をしていたら、きっとわざわざ母の日のプレゼントとしてぜひとも送ることはしなかったであろうなあ、という思いに。
「まあ、いいよね、話のネタだし」
「うん、ええんちゃう、他にもプレーンとチョコがあるし」
「全部アスパラガスバウムクーヘンにしなくてよかったね。プレーンとチョコは普通においしいといいね」
「ま、母の日とかは、気持ちじゃけん」
「うん、気持ちよね」
こうして、無事に、五月の東北旅行とアスパラ祭りは幕を閉じる。おしまい。


追記。
アスパラ横丁味めぐりの抽選で当たる景品は選べないと記憶しているけれど、もしかすると本当は応募段階でどれを希望するか記号を記入したような気もするなあ、という気がしてきた。もしそうならお米を選んだ、ということだろうか。
私達が月岡温泉に滞在したのは五月上旬だったから、まだ開始になっていなかったのだが、アスパラ横丁味めぐりキャンペーンでは、六月に入ると「アスパラグリーンカレー」というものが、地元のレストランあちこちで供されることになっていた。アスパラガスを炒めたものをカレーにのせて食べるのはおいしくて大好きだけど、アスパラガスをおそらくペーストかなにかにして、カレーのルウが緑色になるほどに加えたカレーはどんな味がするんだろうなあ、おいしそうだなあ。