山と温泉その十一

小谷温泉熱泉荘を出る。今回対応してくれたおばちゃんは、以前泊まった時にお世話になったおばちゃんとは別の人で、対応がちょっと丁寧。お風呂上りの私達に「お湯ちゃんとたまってましたか?」と訊いてくださる。館内の清掃の仕方も丁寧で、玄関の靴やスリッパもきれいに並べてある。以前お世話になったときのおばちゃんは、足先で玄関の靴やスリッパを蹴飛ばすようによけて場所を作る姿が接客業っぽくなくて印象深かった。
小谷温泉にはこの熱泉荘以外にも宿泊や日帰り入浴可能な温泉旅館が何軒かある。同じ小谷温泉の名前でも、熱泉荘の源泉はまた別らしく、実際入ってみると、お湯が異なるのがよくわかる。他のお宿のお湯もいいけれど、私の身体と波長がより合うのは熱泉荘のほう。
小谷村からぐんぐん北に移動して糸魚川インターチェンジを通過して、国道8号線を南下する。朝日(あさひ)という名前の町に入るあたりから「たら汁」の看板が増える。
いつもの栄食堂に寄る。今回は「たら汁ねぎなし」ひとつと、「ご飯小」ふたつと、「アジフライ」ふたつと、お惣菜コーナーにある「サラダ」をひとつ。
たら汁はこんなにおいしいのに、どうして全国展開しないのだろうなあ、と、夫と毎回不思議がりながらいただく。
アジフライには最近ちょっと凝っていて、海近くの外食屋さんのメニューのなかに見つけるとほぼ必ず注文するようになった。吉田秋生さんの「海街ダイアリー」という漫画で読んでおいしそうだなあ、と思ったのがきっかけ。もともとアジフライは好きだけど、冷凍でないアジフライをそのつもりで食べてみるとふわっとしていておいしい。栄食堂のアジフライはアジのサイズが大きくて食べごたえがある。
いつもならここに来るとばい貝の煮付けが食べたくなってお惣菜コーナーから取ってくるのだけど、今回は昨夜のあんこうが効いているのか、魚介はたら汁のタラで十分です、アジフライも食べるんでしょ、それ以上は要りません、と身体が言うからその声に従う。
お昼時の栄食堂には次から次へとお客さんがお昼ごはんを食べに来ては出て行く。大繁盛。
おいしかったね、ごちそうさまでした、と両手を合わせて挨拶をして帰路を走る。ここで夫と運転を交代して、私が運転を始める。黄色い信号で交差点を通過しようと思えば通過できる速度だったのに交差点前で停止した私に夫が「大丈夫かー。運転できるかー」と問う。
「お腹いっぱいで、運転しなくていいなら私は全然しなくていいの。どうやらくんが運転代わりたくなったらいつでも言って。遠慮せんでいいけん」
「いや、おれもお腹いっぱいで運転したいわけじゃないから、いい」
「もしかして、寝ようと思ってるじゃろ」
「バレちゃあしょうがない」
たら汁とアジフライのおいしい余韻をお腹に抱えて満たされた気持ちで走行して無事に帰宅。めでたしめでたし。旅の記録おしまい。