オリーブはまちを求めて

昨年ふとしたことでその存在を知った「オリーブはまち」。
ハマチを育てるときの餌にオリーブの実を粉砕したものを混ぜ込むことでおいしいハマチが育つ、というもの。
ハマチも好き、オリーブも好き、という私としては、ぜひともその味見がしたい。
オリーブはまちの産地は香川県だが、海を越えて岡山県倉敷市のスーパーでも入手可能とのこと。
よし、年末、広島に帰省するときには、このスーパーに立ち寄って、オリーブはまちを購入し、義実家に持ち帰り食べるぞ、と、たのしみに西を目指す。
12月29日に自宅を出発し姫路にて宿泊。翌朝ホテルをチェックアウトして広島に向かう途中で倉敷インターでおりてオリーブはまちを売るスーパーに寄りましょう、賛成、賛成、ということに。
夫は世の中に「オリーブはまち」というものがあることに関し、また私の夢か妄想なのではないか、とやや懐疑的ではあったが、日差しの明るい山陽地方での外出が楽しいらしく、行こう行こう、と乗り気になる。
倉敷インターをおりて、スーパーきむら、という小売店を目指そうとして、あ、スーパーきむらの住所を教えてもらったのに、それを手帳に書き写すのを忘れてきたぞ、と気づく。スーパーの情報を教えてもらって、evernoteというweb上の保存箱に保存して、あとで書き写すか携帯電話に入力しておきましょう、と思ったのにそのままにしていた。けれど、スーパーきむらは最近オープンした新しいスーパーらしいから、そのへんで聞けばわかるだろう。
しかし、そのとき運転していた夫は「そんな宛のない運転はしたくない」と言う。
えーと、それじゃあ、そうだ、オリーブはまちとスーパーきむらのことを教えてくださった倉敷在住の人の住所ならわかるから、その住所を車のナビに入力したらここからその方のご自宅に至るまでの間でスーパーきむらが見えるんじゃないかな、と提案していったん入力する。
だが夫は「そんな個人住宅を目指して運転するのはいやだ。そんないきなりおしかけて、スーパーの場所教えてください、とか言うんか?」と言う。私としては、それはそれで楽しそうだな、と思うが、やや空腹が増してきた夫にはとにかくいったん食事時間を設けたほうがいいようだ、と判断して「まず倉敷駅前に行って、何がお昼ごはん食べてから、スーパーの場所を観光案内所で訊いて、それからオリーブハマチを買おう」と提案する。夫は「うん。それがいい」と快諾。
ナビの行き先を倉敷駅に変更する。
倉敷駅前の駐車場に車をとめて、タクシー乗り場の案内をするおじさんに観光案内所の場所を尋ねる。すぐに丁寧に教えてくださるが「年末で営業してるかどうか」とのこと。
行ってみたところ観光案内所は営業しておらず。では、食事を済ませてから、交番で道を尋ねよう。道案内も交番の業務のひとつだよね。
地下飲食店街で、どこのお店にしようかな、と歩く。夫が「あ、ここがいい」と言うお店はカウンターでお酒を飲みながらいろんな料理を食べられるようなところ。満席のカウンターで食事する人々のお盆には皆同じ定食風のものがのっている。夫は「クジラが食べたかったんだー」と言う。そういえばカウンターの上のボードに「クジラ」と書いてある。へえ、よかったね、食べたいときに食べたいものを食べるのがいいよね。
定食を食べ終えたお客さんが席を立つ。入れ替わりに席に座る。お店の人が「今日のランチは鶏南蛮定食ですけど、それでいいですか」と訊かれる。
「いえ、定食ではなく、ここに書いてあるクジラを注文したいんですが」
「すみません。それは今はやってないんです。この時間はランチタイムで定食一種類だけなんです」
「ああ、そうでしたか。すみません、では、いいです」
と席を立つ。
じゃあ、どこで何を食べようか、と、いろいろ見るが、私が食べても安全そうなもの、となると選択肢が限られてくる。
夫が「ままかり寿司、食べたいから、ここにしよう」と寿司屋さんを選ぶ。
ままかり寿司とぬくずし(ちらし寿司を蒸し器で蒸してあたたかくしたもの)とオバイケを注文。
オバイケはクジラの一部ではあるが、クジラの赤身を求めていた夫にとってはやはり少し求めていたものとは異なったようだ。
それでもすべてをおいしくいただいてごちそうさまでした、と会計を済ませてから、交番に立ち寄る。
「すみません。ちょっと道を教えていただきたいのですが」
「はい。どちらをお探しでしょうか」
「スーパーきむら、というお店なんですが」
「ああ、最近できた新しいスーパーですよね」
「そうです、そうです」
「新しいお店なんでまだこの地図には載っていないんですが、この駅のロータリーを出て信号を右に行ったら、その道をまっすぐに行ってください。運動公園の近くになると道沿いに看板が見えますから、すぐわかると思います」
「ありがとうございました。行ってみます」
交番で教えてもらったとおりに進むと、スーパーきむらの黄色い看板が見える。わあ、ここだここだ、と駐車場に入る。広い駐車場の八割方が車でうまっていて、お店は大盛況。
店内に入ると迷わず生鮮コーナーを目指す。
オリーブはまち、オリーブはまち、と心のなかで唱えながら、ハマチのありそうなところに近寄る。
オリーブはまちの案内プレートは冷蔵コーナーに貼ってある。「オリーブはまちとは」という説明も書いてある。が、オリーブはまちは、ない。代わりに大分産のはまちの切り身が置かれている。
はまちコーナーに群がるお客さんたちは「大分のハマチでもいいかあ」「オリーブはまち、もうないねえ」「照り焼きにするぶんだしね。ハマチかブリならどれでもいいね」などと話しておられる。
私は一応念のためにお店の人に確認する。
「オリーブはまちは、はまちのコーナーになかったら、もうないですか?」
「はい、今日はもう、ハマチはあそこにあるだけです」
「そうですか。ありがとうございます」
その情報を心に抱えて、外の大きな単位の魚を見ている夫のところへ行く。夫は「オリーブはまちって、本当にあったん?」と言うから、ほら見てほら見て、とハマチコーナーへ案内して「オリーブはまちとは」の案内板を指さす。
夫は「よかったね、みそきちの夢じゃなくて、本当にいる魚で」と言う。切り身はなくても大きなのならあるかも、と、夫が外に案内してくれる。
外の魚の整理をしている別の店員さんにもう一度「すみません、オリーブはまちはないですか」と訊く。店員さんは「ハマチはないです。そこにオリーブブリならあるんですが、ハマチではないです」と手をさしてくれたところに立つ夫が「おお、オリーブぶり。ブリでもいいんじゃないか」と言う。「半身で2900円ならお買い得なのはお買い得だし」とも。
しかし、しばらく二人でその半身をまじまじと眺めて、どう考えてもこの半身は大きすぎる、と判断する。どれくらいの大きさかというと、頭を切り落とした首から下(魚に首はないか)だけで畳1/8くらいの大きさ。どう考えても食べきるのは無理そう。
残念だけど、今回はあきらめて、また次回の楽しみにしよう、と、話して店を出る。
お店の外にも商品がたくさん並んでいて、お野菜や果物がどれもピチピチしてておいしそう。オレンジ色の濃いあまり見たことのないミカンが山盛りにしてあり試食用にも置いてある。おいしそうだな、と試食用をひとかけ取って味見する。あ、おいしい。夫も手にとって食べる。「おいしいなあ」と言う。近くにいた年配の女性が「あら、おいしそうね」と試食用を手にとって食べる。「あら、おいしい。買おうっと」と一袋かごへ。
どのお客さんも年末年始用の買い物をしているようで、売る側にも買う側にも活気がある。
「大繁盛してるお店だったね」「エンターテインメント性の高いスーパーやなあ」と話してから駐車上の車に戻る。
次回オリーブはまちを買い求めるときには、まず、ホテルかどこかからスーパーに電話をかけて、一パック取置きをお願いしてから、出かけることにしよう。
とりあえずは、夫にオリーブはまちの存在とその人気ぶりを信じてもらえたところまでで今回は大成功。
こういうことは、まずは家族の理解から、だもの。


追記。
スーパーの住所くらい、自分のevernoteの中の情報くらい、車中で携帯でwebで簡単に調べられるのではないか、とお思いのそこのあなた、我が家の携帯電話からはweb機能を外してあることをご存知か。
こういう出来事があったとき、ああ、こういうときに携帯なりスマートフォンなりでその場で調べられたら便利なんだろうな、とは未だにあまり思わなくて、その土地その土地の観光案内所の人や交番の人やホテルのフロントの人などの情報に頼るのが、旅のたのしみのひとつでぜひともそうしたい、と思う間は今のままなのだろうなあ、と思う。