岳温泉4/30

新潟県月岡温泉から福島県岳温泉に移動する。道中の風景が少しずつ春を遡る。
岳温泉に到着すると桜が満開。桜を見に来たお客さんで通りはいっぱい。
逗留先の宝龍館の駐車場に車を停めて、歩いてお昼ごはんを食べるお店を探す。交差点のところにあるソースカツ丼屋さんは大盛況でお店の外にまで人が並んでいる。私たちは別のそばとうどんと丼物のお店に入る。なめこそばを注文する。
去年福島旅行に来たときなめこの水煮缶を買って帰ったのがたいへんにおいしくて、今回も食べたいね買いたいね、と話していた希望がまず叶う。
食事の後、夫が少し桜並木の下を歩きたいと言うから、桜の下を少し歩く。
駐車場の車に乗って、安達太良山のゴンドラ乗り場に行く。翌日の安達太良山歩きに備えて下見をしたいからという夫の希望でゴンドラで上がれるところまで上がる。ゴンドラで上がったところから、夫はさらに雪道を少し歩いて「見てくるっ」と言うから「いってらっしゃい」と見送って私は建物の中の椅子に座って景色を眺めて待つ。
「見に来てよかった」と言っておりてきた夫と一緒にまたゴンドラに乗って下界におりる。お土産物売り場で岩塩と玉羊羹と桃のしそ巻きを買う。
宿にチェックインする。宿の人が「素泊まりと聞いておりましたので、もっと遅いご到着かとばかり。あのこれからでも二食付きにできますが」と言われる。食事は外食しますから大丈夫です、ありがとうございますとお礼を伝えて部屋に入る。
ここのお風呂は露天風呂は酸性泉で内風呂はトルマリン温泉。露天のお風呂のお湯を口に含むと酸っぱくて渋い。
洗い場で身体を洗っていて、鏡に映った自分の皮膚を見て、ああ、月岡温泉が効いているなあと思う。月岡温泉に入るとその後の肌の調子がすこぶるよい。
お風呂では年配のおばあさんと一緒になる。おばあさんは私に「だんなさんと二人で来たのか」と訊かれ私がそうだと応えると「それはいいことだ」と喜んでくださる。こういう些細ななんでもないことを「それはいいことだねえ」とことほぐ大人でありたいなと思う。おばあさんは「桜が昨日と今日で急に咲いて満開になったから、いいときに来られたよ」と教えてくださる。おばあさんはこの宿に湯治連泊されているようだ。
部屋に戻ってから浴衣のまま畳に身体を横たえて体を冷ます。
床の間に飾ってある書の文字がうまく読めないと夫が言う。
「二行目と四行目は読める。最後の光太郎も読める。二行目は阿多多羅山で四行目は阿武隈川。一行目と三行目のひらがながくずしてありすぎて読めない」
高村光太郎の詩を知っていれば難なく読めるんだろうけどねえ」
二人であれこれ解読を試みて、毛筆の文字を読み取ろうとするが、そうかなあ、どうかなあ、と確信が持てない。
夫が「くやしいなあ、読めそうなのになあ」とくやしがりながら、「あそこが 阿多多羅山 あのひかるのが 阿武隈川 じゃないかな」と言う。
「うん、きっとそうだよ、それでいいじゃん」
「ええっ、それでいいんか? 合ってるかどうかわからんじゃん」
「うーん、たぶんこっちにいる間にどこかで光太郎さんの詩の一節くらい確認できるんじゃないかな、で、そのときに今ので合ってれば合ってたで、どうやらくんよかったね、だし、もし合ってなくても今の詩はよくできた詩だと思うから、それはそれでどうやらくん光太郎に勝ったよ、すごいよ、だと思うよ」
「ええー、そういうもんじゃろうかー」
「うん、そういうもんだよ、いい詩だし、上手じゃん、あそこが阿多多羅山あのひかるのが阿武隈川、合ってても合ってなくてもどうやらくん上手と思う。それにそう思って見たら、筆で書いた文字そう読めるよ」
妻がそれでよいではないかとこんなに言うにもかかわらず、夫はなにやら納得できなかった様子で、結局チェックアウトの時に宿の人に部屋にかけてあった詩の内容はなんて書いてあるのですかと質問する。正解は「あれが阿多多羅山あのひかるのが阿武隈川」であった。
この日の夕食は近くの釜飯屋さんにて山菜鶏釜飯と五目釜飯をひとつずつ注文して分けっこする。しかし分けっこといっても噛むのも食べるのも早い夫が何割か多く食べたようでなんだか私は食べ足りない。
帰り道のコンビニで夫は翌日の山歩きに備えて朝ごはん用のパンとゆでたまごを買う。私は部屋にある温泉まんじゅうを朝ごはんに食べたいからそれ以外にはこれからこの食べたりなさを補うべく食べるシュークリームと飲むヨーグルトを買う。私の朝ごはん用にゆでたまごも購入。
夫は「明日の朝六時過ぎに起きて七時前に出発する」と言う。「私は寝ててお見送りしないと思うけど気をつけて行って帰ってきてね。いってらっしゃい」と言ってからお布団に潜り込む。
明日は夫が山に行っている間、私はくうくう眠りたいだけ眠り、気が向いたら温泉に入り、そうしているうちに夫が帰ってくるだろうから、近所の歩いていける日帰り温泉施設の岩盤浴に夫と一緒に行こうかな。


追記。そうそう、この日は、月岡温泉から阿賀野川沿いを通るそのときにヤスダヨーグルトのお店に寄ったのであった。工場の外にワッフルのお店とソフトクリームとアイスクリームとプリンなどのお店とがあり、お客さんがたくさん来ていた。私たちはソフトクリームを一個ずつ食べた。このときのソフトクリームが今回の旅唯一のソフトクリームとなった。
もうひとつ、阿賀野川下り遊覧船の発着所とその周辺は、少し前の豪雨の時に水害の被害に遭った。それも大丈夫だっただろうかその後営業に支障はないだろうかと気になっていたので立ち寄ってみたところ、まったくなんの問題もなく売店も遊覧船も営業していてよかったね、と話し、でも売店で何も買い物もせず遊覧船にも乗らずにそのまま通り過ぎた。