きのこ園できのこ三昧5/4

きのこ園の駐車場は地面が砂利の広い広場。少し雨が降っていて一本の傘を二人でさして施設まで歩く。
まずはトイレ。女性用のトイレは公共のトイレとしては素晴らしく広くてきれい。扉は引き戸で個室空間は二畳分に近い。和式と洋式があるが私が利用したのは洋式。便器はシャワートイレなのはいまどきはもちろんのことだが、トイレの床がレンガのような素材でできていてその床がわずかに傾斜している。その床が便器の向かい側の壁際で一段低くなり真ん中に排水口が設置されている。便器の右手側の壁際には手洗い用の洗面台。お湯が出る。その洗面台の下にはシャワーが備え付けられている。個室内のトイレと床を清掃するためのシャワー。このシャワーがあればトイレ掃除がしやすくて清潔に保ちやすいことだろう。和式と洋式の他には、ベビーオムツ交換台とオストメイトに対応したさらに広い個室もあった。
建物がいくつか並ぶ一番奥まで歩くと食堂の建物。夫が「ここでお昼食べる」と言う。メニューはきのこ中心ではあるが、ラーメンやうどんなどきのことは関係のない普通のものもある。
夫と私と二人で、きのこご飯ひとつ、きのこ汁ひとつ、きのこの天ぷら盛り合わせひとつを注文。夫が注文のために順番待ちの列に並んでいる間に私は座席を物色する。
屋内の座席は靴を脱いで畳に上がるタイプの席と靴を履いたまま椅子に座るテーブル席とがある。
屋外の座席は屋根はついているが壁や窓はなく開放状態。ここのメニューにはきのこのバーベキューもあるから、屋外ではバーベキューができるようなコンロが設置された座席が半数以上ある。すでにバーベキューをたのしんでいるテーブルにはきのこの盛り合わせとお肉の盛り合わせが置かれていてジュウジュウモクモク。
私たちはどこに座ろうかな、と考えながら、とりあえず空いている席に座る。注文の場所では夫がまだ並んで待っている。しばらくすると注文を終えた夫が小さな四角いプラスチックの塊と紙を持ってやってくる。プラスチックの塊は注文したものが出来上がった時にカウンターに呼び出してもらえる通信機器。紙は注文した内容の写し。
「あのね、座席は中の席と外の席とあるよ」
「どっちでもいいけど、外に行ってみようか」
「外はね、この場所と、あの場所と、そこの場所とあるよ」
「この場所は暗いなあ、あの場所よりはそこがいいかな」
「じゃ、そこにしましょう」
食堂の母屋から渡り廊下でつながっている離れのような開放の建物に移動する。夫が「お腹すいたね」と言うが私は「まだ苺がきいてる」と言う。
外の建物は壁や窓がないから、風が強く吹いたときなどは端の方に座っていると雨風が少し吹きこむ。雨や風があたらない内側の席に座って待つが呼び出し音はなかなか鳴らない。
私たちの左斜め後ろの席には五十代のご夫婦とその娘と息子かなという取り合わせのメンバー。だが何か家族の一体感やくつろいだ感とは異なる雰囲気が漂う。この雰囲気はなにかしら、と思ったところで携帯電話の着信音が鳴る。私の携帯電話ではなく、その家族風メンバーの一人のもの。若い男性が席を立って離れてから通話を始める。相手は彼の友人か知人の誰かのよう。
「おう、うん、元気元気。元気にしてる? うん、うん、今大丈夫なのは大丈夫なんやけど、実は彼女の家族のところに来てて。うん、まだそこ(たぶん結婚)までは進んでないけど一応顔合わせというか。うん、そうなんや、悪いな、また、帰ってからこっちからかけるな、うん、じゃ、また」
ほう、ほう、ほほう、なるほどね。彼はあのおうちの娘さんの恋人なのね。そして結婚するかもしれないくらいにお付き合いが進んでいて、彼女のご両親にご挨拶というかそういう段階なのね。それは一体感やくつろぎ感は少なくて正解だわ。
電話を終えた彼は元の席に戻って、彼女と彼女の家族との食事を続ける。彼らのメニューはきのこのバーベキューだから、モクモクジュウジュウしている。食事を終えて、では行きますか、という段階になったときに彼女の恋人である彼が丁寧に「ごちそうさまでした」と挨拶をする。もともと食後にはきちんとごちそうさまを言う文化の持ち主なのか、彼女の家族の手前少し緊張してのことなのか、どちらにしてもなにやら微笑ましいなあ、と思う。
彼らが食事を終えて出ていっても、まだ私たちの食事の呼び出しはない。まだかな、まだかな、と夫は空腹で待ち遠しい風情を抱える。
きのこ園の記憶、少し長くなりそうだから、いったんここまでで、続きはまたあと。