ヒトラーの贋札

一ヶ月か二ヶ月くらいまえにケーブルテレビで見た映画。一人で見たような、夫もいたようないなかったような、記憶がはっきりしない。
映画はドイツ語。ユダヤ人収容所でのおはなし。
ドイツ軍はイギリスの経済撹乱を狙ってイギリス紙幣の贋札を作る。その贋札を作るのは収容所のユダヤ人たち。しかし上質な贋札を作るには体力気力集中力が必要。そのためにドイツ軍は印刷経験のある人材がいる収容所の棟のひとつを他の棟から隔離して生活環境を整える。
ベッドはひとりにひとつ。シーツは清潔。毛布も十分あり寒くない。ここでは囚人服を着る必要はなく私服の一部に囚人服の布地の一部を縫いつけておけばそれでよい。食事は豪勢ではないものの十分な量と質が与えられる、パンも野菜と肉のスープも。この棟には上下水道完備で洗面所もトイレもそれなりに快適。それなりとはいっても他の棟に比べると、そしてそれまでの環境に比べると、それはとてつもない快適。
そのおかげなのかこの棟で暮らす彼らは他の棟の人たちのようには痩せこけておらず思考力や判断力を保つことができている。仕事の進捗度合いを加減することでドイツ軍人と駆け引きをするほどに。
しかしやはり彼らの暮らしは「収容所としてはどちらかといえばマシ」なだけであって、理不尽としか言いようのない扱いを受けることは多く、それは当然ながら彼らが望むものではない。
それでも、清潔な環境で十分な食事を摂り清潔な寝具で眠ることができるその環境を、そこにいる間の彼らはなんとか死守しようとする。
寝心地と食事。私は自分の日々の寝心地と食事を、環境の快適を、生活を営む自由を、こよなく深く愛している。