丁寧に生きたい

ときどき、たまらなく、「私は丁寧に生きたいのだ。」という思いが、突き上げてくる。その力に抗うことは難しい。畳に膝を落とし、両手の爪を畳に食い込ませるように手をつきながら、まるで嗚咽を漏らすように、「丁寧に生きたい。」「丁寧に生きる。」「丁寧に暮らす。」と呪文を唱え終えない限り、その力はなりを潜めない。

畳のない部屋で、この思いの力が突き上げてきた時には、夫を羽交い絞めにする。一見抱きついているように見えるかもしれないが、少し違う。そして件の呪文を唱える。そのたびに、夫はなぜか、「よかったね。」と応えてくれる。
彼の「よかったね。」は、「なんだかよくわからないけれども現状を収拾したい」ときの呪文のようなのだ。その呪文が効いて、羽交い絞めは解かれる。