雨の宿5/2

雨の中、宿の駐車場に到着。ここの温泉は「ニュー猪苗代温泉」。宿に到着したのは私達が最初のお客さんだったようだ。宿帳記載用の紙と筆ペンを渡されたので、なんとなく名前も住所も縦書きで書く。ウェルカムコーヒーをいただく。最近普段はもうコーヒーは基本的に飲まない身体飲むとあんまり上手に消化できない胸焼けに似た感覚が出る身体になっているのだが、この日は、年に数回のみある「コーヒー飲める飲みたい身体」だったようで、きゅきゅきゅきゅっといただいた。
丁寧に設えられた調度品が心地よい。部屋は和室で洗面台付き。この洗面台の素晴らしいところは、湯沸しの機械が洗面台のシンクの下に設置されていて、蛇口をお湯の方向にして水を出せばすぐにお湯が供されるところ。他の湯沸しからパイプを通ってくるまでの待ち時間もその間の冷水もない。
部屋で飲むお茶は電気ケトルで沸かす。我が家と同じタイガーの電気ケトルで、最初に入れてあった八百ccのお水はすぐに飲み干したから、追加のお水を洗面台でくんで入れる。
テレビは地デジ以外に宿泊施設にしては珍しくBSが入る。私が旅先の宿のテレビに望むのは、CSもしくはケーブルテレビの導入。地上波テレビは大河ドラマくらいしか見ない私にとって、日曜の夜以外の宿のテレビはほぼ不必要でむしろないほうが静かでありがたいくらい。でも旅先でもFOXTVやAXNなどを見れるというのなら話は別。
宿の温泉は一箇所でグループごとの貸切。私達が一番最初に到着したから最初に入る。あがったら脱衣所入り口の扉を開けてあがりましたと伝えると、宿の人が次のグループに連絡するというシステム。この日の宿泊は私達を含めて三組。三組が順にゆっくりとお風呂に入り、それ以降は、脱衣所入り口の扉が開いていればいつでも滞在中好きなときにお風呂に入ってください、入るときには中から脱衣所の扉と鍵を閉めてあれば入浴中であることがわかります、ということになっている。
お風呂から上がったとき、いや、お風呂に入ってまもなくから、顔の縁が痒くて痒くて、お風呂から上がって鏡を見ると蕁麻疹状にでこぼこになっている。何に反応したのかわからないが、とりあえず携帯している小粒タウロミンを服用する。スキンケアをしてもまだかゆいのでさらに追加で小粒を飲む。夫に「見てみて、ここが痒いの」と言うが夫は「見た目ではよくわからない」とあまり役にたたないコメントを言うのみ。
しばらくするとかゆみがひいて、排尿大会が始まる。そう、こうしてどんどん排尿すると排毒になるよねえ、と思いつつ、トイレに通う。ここのトイレはアウトバスタイプで三つ。シャワートイレがみっつあり、どの個室もきれいで快適。
共用の廊下には共用の冷蔵庫がひとつ。私が持参した炭酸水はここに入れて冷やしておく。
夫が部屋のテレビのBSで広島カープの試合を見ている間、私は部屋の窓を開けて外の雨を眺める。
お布団はセルフで敷く。さっさと敷いてさっさと横になりお昼寝というか夕寝を満喫する。
夕食は夜七時半から。カウンターに三組が少し離れて並んで座る。カウンターの中で作られた料理が順に出される。厨房で作られた料理も間で供される。山菜中心のメニューで夫が希望していた馬刺しもある。私がリクエストしたとおり、行者にんにくと馬刺しの薬味であるニンニク味噌以外の五葷はなくどれも安心して食べることができる。実においしい料理ではあるが、お酒を飲むのがおいしい料理で、夫は生酒を二杯飲む。お酒が飲めない私は夫のお酒の器の香りで料理とのハーモニーを想像する。
私たちの右隣に座っていたカップルの男性は、北海道の釧路出身の方で現在は関東地方在住。ご実家が釧路湿原の端っこにあり、空に何か大きなものが飛んでるなと思うとそれはだいたい丹頂鶴なのだという話を聞かせてくださる。今回も本当は明日会津磐梯山にご夫婦で登りたいなと思っていたけど、雨だからやめにします、と話される。夫も「会津磐梯山登りたいですよねえ、でも雨のときはイヤですねえ」と話す。
私はこういう少し上等なお宿の中でゆうるりと過ごしながら眺める雨はまた格別だなと思う。
最後の料理までどれもなんというか「十全」で「ホウル」な味わいで、噛めば噛むほどに素材の旨味が全身に染み渡る。
夫は普段飲まない日本酒を多く飲んだせいで身体からアセトアルデヒド臭を放つ。
部屋に戻ると夫はお酒を飲んだ後特有の眠りに入る。その前にこれを飲んで、と消臭サプリを手渡す。私は自分の蕁麻疹のその後を観察しつつ、明日はどこで何をしようかな、と考えて寝支度をすすめる。
もう眠いなあ、と思ったから、お布団に入って電気を消す。おもむろに夫が「消さないでっ」と声を出す。「まだ寝ないんだから」と言うが、いや君今までずっと寝てたから、と思う。それでもまあ、まだ歯磨きもしたいであろうし、彼なりに夜の計画があるのだろうと思い電気をつけたままで私はお布団に入る。
その後夫はもう一度お風呂に入り、歯磨きをし、テレビを見て、となんだか夜を満喫していたようす。