うるしの王子様

先週の土曜日に山歩きをした夫だが、どうもそのときに手と顔の一部が漆の枝に触れたらしく、そして漆に触れた腕と手の汗を拭いたタオルでお腹の汗を拭いたらしく、左手の甲と左腕と右腕と腹部と右目周辺が漆かぶれになった。
日曜日に大阪出張に出かけた時の夫の外見にはなんら異常はなかったのだが、本人によればあの時から少しだけなんとなく痒いかなという感覚はあったのだという。
日曜日の夜、月曜日の夜、火曜日の夜、そして水曜日の夜に自宅に戻る前と、私たち夫婦にしては珍しく携帯電話で通話したのに、その時の夫の話題は大阪の山用品屋さんで買おうかどうしようか迷っている商品そして結局購入した商品に関することが殆どで、漆かぶれの話題は一切なかった。
水曜日に帰宅した夫の姿を見て「まあ、どうしたのその漆かぶれのような姿は」と尋ねると、夫は「土曜日に行った山で山道の草ををかき分けて進む時に生えてる樹の枝がなんとなく漆っぽいなあと思ったのは思ったんだ。子どもの頃は山で遊んでよく漆かぶれになっていたから気をつけないといけないなあとも思った。けど触ったんやろうなあ。そしてそれに気づかずにタオルで汗をふいたんやろうなあ」と答える。
腕はそうでもないのだが、左手の指には四本指に直線状の小さい赤い水疱があり、左手の甲には太い直線を描く水泡群があり、人差し指の付け根の下あたりには直径1cmくらいの大きな水泡が膨らんでいる。
右目の周りは水泡ではなく赤い痣が何個かあるような状態。お腹はおへその左側に小さな水疱と湿疹が密集しておりその密集したところが直径10cmくらいの円になっていて中心の水泡はやや潰れて滲出液が出そうなかんじ。
とりあえず自宅にあるもので対処して、夫は土曜日になれば休みだからそこで受診するまでつなげばいいね、ということに。
まず、外用薬はテラ・コートリル軟膏。テラマイシンという抗生物質とヒドロコルチゾンという副腎皮質ホルモン(ステロイド)の複合剤。リンデロンVGクリームもあるのだが、顔(右目の周り)につけることを思うと「弱い」のランクのステロイドにしたいな、というのと、手持ちのテラ・コートリルは使用期限が今月までだから先にこっちを使いきってほしいなという事情とが重なって、まずはテラ・コートリル。
それから飲み薬でもステロイド使ったほうがいいよね、な炎症と充血が見られるから、セレスタミン配合錠(抗ヒスタミン薬とステロイドの配合剤)を取り出す。春先の花粉症の症状がひどい時用に入手しておいたものの残り。
そして抗アレルギー剤も使ったほうがよかろうと判断して、これも春先に夫が花粉症用に使っていたザイザルの残りを併用。
排毒も助けてやりたいから、漢方薬の十味排毒湯とその他ビタミン剤などを配合した小粒タウロミンも取り出す。
夕食後に服用すると、みるみるうちに赤みが引く。塗り薬はお風呂上りに塗って、圧がかかると水泡が割れて体液が出そうな部分を包帯で覆う。
翌日木曜日の昼間はタウロミンのみ服用して過ごす。夜には赤みはかなり引いているものの、水泡は順調に成長している様子。
最初夫は「悪化している」という表現を用いていたが、悪化というよりもこれは漆かぶれ症状としては「順調に発症している」と言える状態なのではないかと言うと、夫は「そういえば、子どもの時に漆にかぶれた時にもそうだった。漆の枝を触ってからその日のうちにではなくて何日かしてブツブツができて、それがどんどん水疱になって、しかも当時は抗生剤の軟膏なんて持ってなくて、飲み薬も飲んでなくて、エアコンもつけてないから暑くて膿んで、ジュクジュクのグズグズになったのをやり過ごすのに五日か一週間くらいはかかった。あのときの流れの膿んでないバージョンだ。そうか症状が出るだけ出て治るまでにそれくらいの時間はかかるか」と気づく。
木曜日と金曜日の夜にもセレスタミンとザイザルを飲み、あるだけのテラ・コートリルを塗布し、テラ・コートリルを使いきって足りなくなった指の一部分にだけリンデロンVGクリームを塗る。
夫が「あれ?なんかクリームと軟膏は塗ったかんじが違う?」と言う。「そりゃあ、クリームと軟膏の違いがあるもの」と言うと、「何がどう違うのか」と訊くから「クリームは水中油型(すいちゅうゆがた)で、軟膏は油中水型(ゆちゅうすいがた)なの」と言うと「なにそれ」と言うから詳しく説明。夫は「ほうほう、なるほど、たしかに、クリームはそれでさらっとしてて軟膏はぺたっとしてるのか」と納得する。それぞれのメリットとデメリット(クリームは塗り心地がさらっとしていて塗りやすく塗り心地がよいので結果的にまじめに塗って早く治りやすいというメリットがあるが、手などはちょっと水洗いしただけで塗ったクリームが流れ落ちやすいというデメリットがある。軟膏は塗り心地はペタッとしていてその油っぽさがベタつき感と感じられるというデメリットがあるが、ペタッとしているぶん皮膚での定着性がよく少々洗っても落ちることなく長くとどまって薬を吸収しつづけることができるだけでなく皮膚の損傷がひどくて皮膚の下の粘膜が露出しているような時に塗っても痛くないというメリットがある、クリームだとそのサラフワ感が粘膜にとっては痛み刺激となることがある)も紹介したところ、夫は「たしかにそうやなあ」と感心する。そうか、彼はこれまで軟膏とクリームを意識して使い分けたことがないのか、と知る。
そして今日土曜日の朝、夫は最寄りの皮膚科に行った。先生は夫をひと目見て「漆にかぶれましたか」と言われたのだとか。手の甲の水泡は成長してすでに直径2cmほどになっており、もうその水泡はぜひともその状態のまま先生に見てもらってほしいからそうしてと私がわざわざ夫に頼むほどに立派な成長ぶりを誇っていた。先生は「小さい水疱はそのままでそのうち身体に吸収されて小さくなりますが、大きい水泡はこれだけ大きいのは潰しておきましょうね、とピンセットで切開してさらにピンセットで押して水泡の中の浸出液を出しきって薬を塗ってパッドをあてる処置をされていた。
そして処方された薬が私にとってはたいへんに参考になる組み合わせだったので、これはぜひともここ「みそ記」に記録しておこうと思った。
プレドニン5mg 4錠 朝食後 4日分
レバミピド 3錠 毎食後 4日分
ザイザル5mg 1錠 夕食後 7日分
ロコイド軟膏 1日2回 顔に塗布
デルモベート軟膏 1日2回 手と体に塗布
レバミピドムコスタジェネリック医薬品であるが、先生が夫に「胃腸は弱いですか」と訊いてくださり、夫が「はい、弱いです」と答えたため処方となった。プレドニンの胃腸障害副作用予防目的と思われるが、夫は本人が思うほどには胃腸は弱くないと私は思う。本人はストレスが胃にくるタイプだと言い、たしかにまあ「大飯喰らい」ではないけれど、同じ物を食べても食あたりを起こすのはいつも私だけで、夫は私が嘔吐下痢している最中いつも元気だ。しかし今回夫がもらってきたレバミピドは、私がこれまで味見したことのない会社のレバミピドなので、この機会に私も味見(飲み心地と効果の観察)をさせてもらうつもり。夫には私の常備薬の他社のレバミピド1錠と物々交換する交渉を取り付けた。
ザイザルは、やはり漆かぶれの時にもザイザルでいいのね、と納得した。自宅の手持ちのザイザルと比べると、今日処方してもらったザイザルはシートに刻印されている製造番号が新しく使用期限が少し先なので、同じ数の古いほうのザイザルを7錠夫に手渡し、今日もらってきたザイザルは常備薬置き場に片付ける。
しかしプレドニンの使い方はさすが皮膚科医だとほれぼれとした。たしかに夫のかぶれの状態には多めのステロイドの飲み薬を使った方がよいとは思っていたが、1回に4錠を4日使うのか、と、これくらいひどい漆かぶれのときにはそれくらいは使うのか、となんだかすごく勉強になった。
夫は処方してもらったプレドニンを帰宅してすぐに飲んでおり、これまたみるみるうちに水泡の赤みがひいていくのを観察できた。
軟膏に関しては顔には「中程度」のレベルのステロイドを、手と体には「最強」レベルのステロイドで対応するのか、そうか、そうだな、なるほどな、と納得。
これで私は漆かぶれのときの薬の基本を学習できた。そしてここ数日自宅にある薬で対応してきたその選択も、あるものの中では最善の策であったのだな、よかったな、と思う。
夫は山では漆の存在に気をつけた対策を徹底しもしくは場合によっては勇気ある撤退を考慮することを学んだ。漆の画像をいくつも検索しては「よし。漆の枝と葉っぱの特徴はおぼえた!」と自信を深めた。
夫は山を歩く人として、そして漆にかぶれる体質である人として、漆対策をきちんとしておく必要があり、今がそのタイミングだったということなのだろうな。