笠ヶ岳で歩く一般道

笠ヶ岳に夫が行ったとき、登山道に近い駐車場は既に満車で駐車できない。仕方なく離れたところにある第二駐車場というのか別の山の登山道入り口駐車場というのかそういうところに移動する。しかしその駐車場から笠ヶ岳登山道入り口までは他に交通手段がなく、一般道を延々一時間半近くかけて歩くことになる。
「予定外の一時間半とはいえ、もともと歩きに行ってるんだから、徒歩がもう一時間半くらい増えてもどうってことないのかな」
「いや、おれは山に歩きに行っているのであって一般の道を歩くために行ってるわけじゃないから、あの一時間半はタイムスケジュールに入ってないから、あっちゃー、うっへー、と思った」
「そうなんだ、そういうものなんだ」
夫が山登り道具を背負い歩いていると通りすがりの車の人が「笠ヶ岳でしょ?乗っていきますか?」と声をかけてくださる。夫は「うわー、ありがとうございますー」とすぐさま乗せてもらう。知らない人の車には乗らない、という防犯意識は山では必要ないのだろうか。
「ねえ、どうやらくん、その人は車で笠ヶ岳入り口まで行っても車駐めるところないんでしょう?どうするんだろう」
「ああ、その人達は二人組みで、二人ともが遠い駐車場から荷物を背負って歩くよりも、いったん登山道の入口に荷物を置いて、一人は荷物番をして待って、もう一人は遠くの駐車場に車を置いて手ぶらで歩いてくる作戦。グループの人はけっこうその手を使ってるみたいだった」
「ほほー、なるほどー。重い荷物背負って歩くのと、身軽に歩くのとでは、それは体力の消耗違うよねえ」
「ちがう、ちがう、もう、全然違う。乗せてくれるんなら乗せてもらう。あれは助かったなあ。あれで1時間は取り戻したもんなあ」
「帰りはどうしたの?」
「帰りはタクシー使った」
「タクシー?登山道の入り口にタクシーがいるの?」
「うん、たまたまなんか、そういう駐車場の状況なのに登りに来てるお客さんが多いからなのか、タクシーがいた。タクシー使えるなら使いますがな。おれは山は歩きたいけど道路は歩きたいわけじゃないから」
「なんだろう、そこは他の人の車に乗せてもらったりタクシー使ったりして体力温存するのが正攻法なんだろうけど、自分の夫に対して湧いてくる『そんなへなちょこヘタレなことでいいのか』なこの気分はなんなのかなあ」
「その気持はわかる。おれも自分でそう思ったもん。うわー、おれ、ヘタレー、と思った。タクシー乗ってるときに他の人たちがけっこうたくさん道路の端を歩いているの見て、皆さんえらいなあ、と思ったもんなあ」
「皆さんえらいなあ、おれはヘタレだなあと思いながら、どうやらくんはタクシーの後部座席でこう両腕を広げて背もたれにもたれかかっとったわけじゃね」
「うん」
笠ヶ岳に行く時には、登山道入り口の駐車場が時に満車の場合に備えたスケジュールを組んで行くのがよさそう。